雨上がりに嗤う

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 ミミズは土の中が水だらけになって、生きるために出てきているだけだ。決して馬鹿じゃない。 「ねえ、君」  僕が声をかけたときには既にいなくなっている。どうして僕にそんなことを言うのか。さすがに一言注意をしようと思ったけれど、いなくなってしまったのではどうすることもできない。  なんだかちょっと嫌な気分だ。この時間って子供は学校に行っているはずなんだけど。不登校なのだろうか。  天気予報の人がお洗濯をするなら今日だと言っていたのはすぐにわかった。明日からまた雨なのだ。変わりやすい天気なのだそうだ。降ったりやんだりが激しく、たとえ晴れ間があっても洗濯物は出さない方がいいと言っている。  最近は温暖化の影響なのか、雨が降る時は凄まじい量が降る。一日で一ヵ月分の雨が降ったなんてところもあるみたいだ。道路の冠水に注意してくださいというのも、僕が子供の頃にはなかった注意喚起だな。どれだけ気を付けていても、どうにもならないことは多い。  翌日、雨は降っていないみたいだけどいつ降り出すかわからない。買い忘れがあって、なるべく早く買っておきたいから出かけることにした。通販は苦手なんだ。朝からズキズキと左足が痛む。気圧が下がってるのかな。 「馬鹿、か」  あの子の言葉が刺さる。雨上がりだったな、僕が事故に遭ったのも。杖を持って、僕は家を出た。  あの日、僕はちゃんと交差点を青信号で渡っていた。雨上がりで水溜まりがだいぶ多かった。そうしたら横断歩道の途中で転んでしまった。水に滑ったんじゃない、道路がデコボコしていてけつまずいてしまったんだ。そうしたら運悪く右折をしてきた車に突っ込まれた。  運転手の言い訳を聞いて僕は怒りを通り越して呆れてしまった。僕が歩いているのには気づいていた、でもそのまま渡りきるだろうと思って減速しなかったんだそうだ。ちょうど僕が通り過ぎるのを計算して曲がったら、いきなりこけるからだと喚く。なんだそれはって感じだ、お前は空間把握能力でも持ってるのかと言いたい。 「普通あんなところでコケねえよクソが! ふざけんなよテメェ!」  警察に状況確認を求められて逆ギレした男の叫び声、今でも忘れることができない。自分は悪くない、転んだ僕が悪いと言い張る男。  もはや違う種族の生き物なんじゃないかって思った。こいつとは話すだけ無駄だなって思うくらいには、本当に絶望的だった。
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