雨上がりに嗤う

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「目の見えない僕がむやみに助けようとすれば、二次災害が起きかねない。まして僕は足が少し不自由だからなおさらだ。感情や焦りで突発的な行動をしないようにしてるんだよ。こういう時は他の人に助けを呼ぶのが正解だ。最初からそのつもりだった。ただ、相手が君だから警戒して一人で来ただけだ」 「うそだ」 「呼んできていいかな? どうせ僕にしか君の存在はわからないんだろうけど」  雨上がりとか雨に何か嫌なことがあった人にしか、彼女の声が届かないのかもしれない。すべての人に聞こえるわけじゃないとすれば辻褄が合う。限られた獲物しか狙えない、だから頻繁に事故が起きるわけじゃないのかもしれない。 「今僕に何もしてこないって事は、君の本体は水の中の方か」 「ちがうもん!」 「警察とか、市役所に相談しておくよ。冠水の対策なんていくらでもできるから。二度と人が近づかないようにすることもできるかもね」 「いやだぁ!」  僕は方向を確認しながら来た道に戻り始める。 「いくなあ! 助けて、溺れちゃう! やめてやめてやめて! ねえ助けてよ、私本当に溺れてるの! バーカ、バーカああああ!」  パニックになって、言っていることがめちゃくちゃだ。 「命を嘲笑うからだ」 「助けてよお!」  今の助けて、は演技の方の助けて、ではないんだろうな。声質が違う、必死に言ってる。コイツの本心だ。  気付いたけど、気付かないふりをした。人を引きずり込まないと存在し続けられないとか、何か事情があるのかもしれない。知ったことか。  僕だって、怒るよ。人が良さそうと言われても、一方的に怪我をさせられてその相手に「目が見えないなら外歩くんじゃねえよ!」と怒鳴られた時は怒鳴り返すし。必死に生きているものを嘲笑えば不愉快だし。自分の行いを顧みないやつは、嫌いだ。 「お前はそこで永遠に一人で沈んでろ、馬鹿が」  冷めた声でそう言い放って僕は迷わずそこを後にした。人殺し、人殺し! ばーか、ばーか! といつまでも叫び続ける声が聞こえたが。イヤミのつもりで言ったんじゃなかったんだけど、自然と言葉に出た。  やがて、泣き叫ぶ声に変わったけど。大雨の音で、すぐにかき消された。
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