雨上がりに嗤う

1/7
前へ
/7ページ
次へ
 何日か雨が続いてようやく晴れた。洗濯物を干すなら今日がチャンスですよ、と天気予報の人が笑って言っている。  僕の家は乾燥機付きの洗濯機だからあまり関係ないんだけど。晴れたのならやっぱり外に出たい、買い物行きたいし。この時期は雨続きで憂鬱だ。雨の日は別にいいんだけど、雨上がりは嫌な記憶が蘇る。  家を出て歩く、雨上がり独特のもわっとした湿気。暑くなるかな、と思いながら歩いている時だった。 「水たまりたくさんあるでしょ」  突然後ろから声がした。最初僕に話しかけられているとは思っていなかった。ねえねえお兄ちゃん、と声をかけてきたので、どうやら僕に言っているらしいとわかる。 「大きな水たまりがたくさんできるとね、バカが増えるんだよ」 「馬鹿?」  女の子だろう、意味がわからず首をかしげた。すると女の子はケラケラと楽しそうに笑う。 「久しぶりに雨が降るとね、面白いの。水たまりにトンボが卵を産むんだよ」  トンボの幼虫はヤゴだっけ、水中の生き物だったんだったかな? 確かにずっと雨が降らないと水辺がなくてトンボは困るだろう。ようやく見つけた水。田んぼや川なんかと勘違いするってことか。 「干からびちゃうのにね、一生懸命卵を産むの。バーカ!」  キャハハハと笑ってタタタッと走り去っていく。トンボからしたら一生懸命なだけなんだけど。子供って残酷だ。  再び歩き出すとまた「ねえねえ」と話しかけられた、さっきの女の子だ。 「大きい水たまりがあるとね、カエルが卵を産むの。でもオタマジャクシになる前に干からびちゃうんだよ。そんなところで産むからだよ」 「それは蛙にはわからないからね」 「前なんてオタマジャクシがうまれちゃったところがあった。でもまた暑くなって、干からびたらみんな死んじゃった。バーカ!」  タタタっと女の子はどこかに走っていった。オタマジャクシからしたら地獄だ。どんどん水がなくなって呼吸ができなくなって。蛙になっていれば生き延びていたかもしれないけれど。住むところがだんだん小さくなっていく、絶対に生き残ることができない。  ドラッグストアで買い物をして少し歩いた時だ。 「ミミズがいっぱい道に出てくるの。でもあっという間に乾いちゃってミミズはパリパリになっちゃう。バーカ!」   雨の日と雨上がりはミミズだらけで気持ち悪い、と小学生の時みんながよく言っていたのを思い出した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加