春一番

8/8
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「わたし、何言ったの……?」  暗転した画面の前で硬直していた春風から発された第一声だ。  瞬きを繰り返し、乾ききった口で手を当てる。開いた口が塞がらない。 「荒木くんが、ミュラくん」 「ミュラくんが荒木くん?」 「荒木くんに、嫌いじゃないなんて、言っちゃった」 「ミュラくんも荒木くんも傷つけちゃったかも」 「あぁ、どうしよう」  春風の頭は不安でいっぱいだった。不安で満ち、思考回路がショートしかけていた。  うまく回らない口で、今起きたことを声に出して振り返る。  いつの間にか、手の震えは止まり、目は熱を帯びていた。 春風は思い切る。 「荒木くんに、会いに行こう」  春風の荒木への思いは、彼女を強くした。不安も彼女を強くした。  春風が大きな一歩を踏み出した瞬間だった。  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!