夫へのラブレター

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 あれはたしか友人の結婚式だったか。大切な思い出の写真を繋ぎ合わせたスライドショー形式の映像。たまに動画なんかも交じっていたりして、とにかく幸せの寄せ集めだったのを覚えている。かくして、そんな友人が離婚したというのだから私は思いを馳せるほかなかった。あのスライドショーにはけして映し出されなかった、友人元夫妻の日常を。あるいは、スライドショーのその後の日々を。自分には関係ないと切り捨てられない私は、どうしたって囚われてしまうのだ。他人のそんな悲劇に。あるいは、救いに。  今朝は夫が早くに家を出た。私は心地よい風に身を任せながら洗濯物を干していた。この頃は少しましになってきたけれど、まだ仕事を始められそうにはない。そのことが私をひどく不安定にさせていた。  夫は朝早く仕事に行き残業してくることもあり、とにかく家のすべての金銭面は夫に頼っていた。私は家で家事をする以外に存在意義を見つけられないでいる。けれど、その家事ですら毎日やらなければと思うだけでたまに頭がおかしくなりそうなほど嫌になってしまう。そのことも夫は許容してくれている。夫に頼りっぱなしの私は、これで本当にいいのだろうかとずっと思い詰めていた。 「あれは救いだったのかしら」  つぶやいたのは、友人の離婚のことだった。友人の美佐子は、別れてからめっきり元気を取り戻していた。離婚騒動で随分とやつれている様子がSNSでも見て取れるほどだった。  美佐子はSNSを駆使する人だった。それは鬱憤の捌け口であったり喜びの共有であったりするのだけれど、大抵の人はその投稿をスルーする。私も例に漏れずその通りで、無視のつもりはないのだけれど、リアクションをするほどでもないと思ってしまっていた。  ただ、離婚をにおわせだした頃の彼女はひどく荒れていたし、発散のためか友達と飲んだという投稿の画像なんかは日に日にやつれていくのが分かった。本人は気付いていたのだろうか。  それを思えば、今の彼女はあの窪んだような目つきもなくなり以前の表情になって、痩せこけていた頬にも元の膨らみが戻ってきていた。あれが空元気でないことを祈るばかりだ。あんなに辛そうな美佐子を画面越しに眺めながら、私はなにもしなかった。そのなにもしなかったことに、(いささ)か勝手な罪悪感にも近いものを感じていた。
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