夫へのラブレター

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 ――私は一人で買い物に行けない。それは足がないからとか店が遠いからとかそういった理由ではない。いつ不安が襲ってくるか分からないからだ。動悸がして眩暈がして、汗が噴き出して、パニックになる。家でも実のところ、寝たきりになる日も多いのが現状である。夫には本当に申し訳ない思いでいっぱいなのだが、夫はいつも優しい言葉をくれるのだった。 「なんでもやらなきゃいけないなんて思う必要はないんだよ」 「一人暮らしのときは自分でやってたことなんだから」 「できる方がやったらいいよ」  と、家事についてはまったく気にしていないようで、本当に言葉通りに過ごしてくれている。私が一日中寝て過ごしてしまった日は、夫が帰ってきてから洗濯機を回してくれるし、怠くてなにもやる気が起きないときは夫が夕飯を作ってくれる。 「ごめんね、やらせちゃって」  と私が言えば、 「謝る必要なんてないんだって」  と返してくれる。  こんなぬるま湯生活で私は治るのだろうか、と考えてしまう。医者が言うには”悪いと思わないこと”が良いのだという。それが出来たらどれだけ楽かと思ってしまうが、これは私が夫を信頼していないということになるのだろうか。  夫との日々は緩やかだ。二人でソファに並んで、一緒に食事を摂る。そっと膝や肩を触れ合わせて、テレビを見る。そんな毎日が、ずっと続けばいいと思う。あのスライドショーにはけして描かれないような、零れ落ちるほどの日常を大切にしたいと思う。  夫との出会いはほとんど特別なことは何もなかった。私たちは式を挙げなかったから、私は結婚式の主役になったこともない。けれど、この人生の主役は私なのだ。そのことを私はいつの頃からか自覚するようになった。  ”自分を守ることを、悪いと思わなくていいんだよ”  昔、そう言ってくれた友人がいた。夫に甘えられる生活を、私は選べたのだから。夫に出会えたのだから。これ以上なにを望むことがあるのだろう。なにに私は怯えているのだろう。どこかで、強迫観念みたいなものに襲われている。両親にも理解はしてもらえなかった。夫だけが私の理解者だった。この病気は、果たして治るものなのだろうか。
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