夫へのラブレター

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 夫と出会ったのはそのすぐ後だった。夫はとてもおおらかな人だった。そして、私の性質と彼の性質は本当によく似ていた。凸凹コンビがいいということを聞いたこともあったけれど、私にはそれは向かなかった。私と正反対の人と2年半同棲をして、私はそれに気付かされた。夫の、程良いいい加減さが好きだった。大雑把な私にとって、細かい人は苦手なのだ。そのすべてに、私は応えることができない。しようとすると、心が壊れていくのを感じる。その度に、病状は悪化していくのだ。  一人の時間がないとだめなところもあるくせに、一人の時間は私に考え込む時間を与えることになるのも恐ろしいことだった。これが夜も一人じゃないことに、私はまた感謝しなければならない。夜というのは人を闇に引き込むものだ。皆、知らないことばかりだろう。本当は、たくさんの人が、知って、理解して、許容してくれる世の中ならどれだけ良かっただろうと思う。けれど難しいのも分かっている。仮病を使う人間が出てくることは明らかだからだ。  夫への感謝を、私は手紙にしたためることにした。どんなに言葉を尽くしても足りないけれど、それでも、やはり伝えたくて。  毎日、そんなことを考えながら過ごす日々は、少しずつだがいつしか私に活力を与えるようになった。一人で外に出てみる勇気を与えてくれた。なにがあったわけでもない。ただ、頭から自分の病気のことが離れたのが大きかったのかもしれない。気にしない――それは、とても難しくて簡単にできることではないけれど、きっかけは人それぞれなのだと思う。私はきっかけが夫だった。それだけだ。それだけ、という奇跡を、人は繰り返し願うのだと思う。  夫への手紙を作成するまでには、半年を要した。それだけ私の中では重要なことだった。更に渡す日をいつにしようかと考えると、やはり、夫が付き合おうと言ってくれた日しかない、と私は思った。だから、渡すまでには更に三ヶ月を要することになったのだった。  渡し方をどうしようかと、これまた考えた。私は考えすぎる生き物である。よく、そんなに考えなくても周りの人はそこまで深く考えてないよ、という言葉を貰ったこともある。考えないでいられたら、私はこの病気になっていなかったんじゃないかと思う。そんな簡単に、できることではないのだ。
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