不信感

1/1
前へ
/30ページ
次へ

不信感

「…こんにちは」 「こんにちは~」 生徒会室を飛び出した私は、コンピュータ室に来た。 情報研究部の活動場所だ。 「あ、紗奈! 今日は早いね」 「うん…もう全て投げ捨てて来た」 「どういうこと?」 さっきあったことを香織に話した。 生徒会メンバーのことから、長谷田先生のことまで全て。 そんな私たちの会話を聞いていた他の部員も、集まってくる。 「今回の会長と副会長は大失敗だと思った。あれ、完全に人気投票だったもんね」 「そうそう、だって会長の公約覚えてる? 会長になった暁には、自動販売機をもう1つ増やしますだよ。それで当選するとか意味分からんにも程があるよね」 「もう既に自販機3つあるのにね」 先輩たちが思い思いのことを言う。 …良かった。 情報研究部の先輩は私の味方ということに安心感を覚える。 「しかし、長谷田マジでつまらんね!」 そう声を上げたのは香織。 そして部員みんなが頭を縦に振る。 「あれは教師を辞めた方がいい」 「そう思います。大体、うちのクラスの国語はほぼ授業崩壊しています」 「え、長谷田1年の国語担当なの?」 「はい。本当にヤバいです。けれど、何故か生徒から人気ですからね…私は嫌いですけど」 人気だけで教師をやっているような人。 長谷田先生…。 どうやったら生徒会担当から外せるかな。 ちゃんと『指導』ができる先生が良い。 「うい~す」 「峯本先生、こんにちは~」 「おぉ、渡里。今日は来たか」 「来ました」 情報研究部の顧問、峯本(みねもと)颯太(そうた)先生。 商業科情報処理教師。 商高のハッカーと呼ばれる峯本先生。 いつも怠そうだが、情報処理のことになると火が付く。 「渡里、白石から聞いたかもしれんけど。秋の大会はプログラミングを頼むな」 「あ、はい。頑張ります」 出来る限り…だけど。 そう心の中で付け足す。 先生は教壇に向かいながら、首を傾げた。 「ところで、何でみんな集まってんの?」 1年生から3年生まで、みんなが私の周りに集まっている。 この状況…確かに、疑問を抱く。 「いや、先生聞いて下さいよ。渡里ちゃん以外の生徒会メンバー、全く活動していないらしいですよ」 「そうそう。渡里ちゃんが1人で生徒会業務をやっているし、明日の生徒総会の準備があるっていうのに誰も来なかったみたい」 「ねー先生。ヤバくない? 」 「それは…ヤバいな。ヤバいけど、そういう状況で渡里がここにいて…明日の生徒総会の準備は? 誰がやってんの?」 「…………」 コンピュータ室に静寂が訪れる。 勿論、誰もやっていない。 「先生、紗奈はここ来る前に生徒会室行って準備してたんです。だけど長谷田先生が来て、生徒会メンバーが誰もいない状況の中、紗奈に対して『無責任なのはお前』って言ったらしいですよ」 「渡里…本当?」 「はい。先に私が『みんな無責任』って言ったんです。そしたら長谷田先生が『やる気があるお前が呼び掛けるんじゃない? 無責任なのはお前だろ。何してんの』って言ってきたので…全て放棄してここに来た次第です」 「それは…長谷田が悪いな」 改めて長谷田先生の言葉を口にして思ったけれど。 ………酷い言葉だな。 「長谷田もなぁ、生徒にチヤホヤされて天狗になってるから。喝入れないといけないって思ってたところよ。まぁ、任しとき。俺から言ってみるよ。渡里は明日のこと気にすんな。まっ、どうにかするから」 「…峯本先生。ありがとうございます」 「さすが情研部の顧問! よ、カッコイイ!!!」 「はいはい。カッコイイのは知ってるから。よぉ〜し、皆の衆。大会に向けて勉強しようじゃないか」 「はーい」 プログラミングと表計算に分かれて勉強が始まった。 峯本先生は気にするなと言ったけれど。 明日の生徒総会のことがむちゃくちゃ気になって。 目の前の課題に集中できなかった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加