泣きたかったんだ

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泣きたかったんだ

私は泣きたかった 保育園で年下の子と同じ組になったとき 歩かず言葉も出ないのでお医者さんを紹介されたとき もっと大きな病院を紹介されたとき 保育園以外にも通う場所が増えたとき 私は泣きたかった 「はいはい」と相手の話を聞きながら 言われた通りに物事を進めていきながら 「そうですね、仕方ないですね」と笑顔を浮かべながら 何度も同じ事を話し、沢山の書類を書きながら 私は泣きたかった 倍の時間をかけて立ち上がり一歩が出たとき 少しずつおしゃべりを始めたとき バスや電車が好きなのだと分かったとき 食べられるものが増えてきたとき 私は泣きたかった よろめく子どもの後を追いながら 膝の上の小さなぬくもりを感じながら 帰り道で踏切が開くのを待ちながら 小さなお皿に料理を取り分けながら 私は泣きたかった 泣くより先に物事が押し寄せてきて 目の前の課題をこなすことで精一杯だった 今やらなければと躍起になっていた 時間と「やるべきこと」に流されていた あの日の私に伝えたい 私は泣きたかったんだ 現実は何も変わらないとしても 泣くぐらいは自分に許してもいいんだと あの日の私に伝えてあげたい
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