不器用

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  ガラッ その時、開いた保健室の扉。 保健の先生が戻ってきた。 「あれ、向井…と、内山…だっけ? どうした、2人とも」 そんな声を聞き、向井先輩は急いで私から離れる。 「先生、内山さんクラスでいじめられていて。怪我とかは無いと思うんですけど、戻れないから少し休ませて欲しくて連れてきました」 「…いじめ?」 先生は近付いてきて、私を上から下まで見た。 チョークにまみれた私。 怪訝そうな…先生。 「…陰湿、だな」 そう言って、椅子に腰を掛けた。 「…あれか、向井と関わった腹いせか?」 「そうですね。…俺のせいです」 「……だろうな。向井…お前、不器用だもんな」 先生のその言葉に、私も先輩も、思わず顔を上げる。 「向井は勉強ができて、運動もできて。生徒会長をしていて、明るく元気で、誰にでも優しい。でもそれが、お前自身の首を絞めているんだよ」 「…先生………」 「みんなに優しいのは、お前の良いところ。だけどそれが、仇となることも覚えといた方が良いぞ。優しさが全てじゃない。その優しさがふと破綻した時に無用な争いを生む。それを今、そこにいる内山が体現しているじゃないか」 「………」 先輩は…何も言えないまま黙り込んでしまった。 先輩は悪くない。 先輩の優しさは、先輩の全てだから…。 そう思っても、私には先輩に掛ける言葉が何も見つからない。 「まぁ、いいや。内山はここで休んでいきな。向井は教室に戻って授業を受けること。あとは俺が引き受けるから」 「…はい」 先輩は小さく頷き、顔を上げる。 また、雨の日と同じ…。 どこか退屈そうな…気だるそうな…悲しそうな…そんな、何とも言えない表情をしていた。 「…向井先輩」 「……ん?」 「助けてくれて…ありがとうございました」 素直に頭を下げ、御礼を言う。 先輩は少しだけ口角を上げて、微笑んだ。 「ねぇ、美久ちゃん。次に雨が降ったら…あの場所に居るからさ。その時また、来てくれるかな。もう一度…想いを伝えさせて。そして、美久ちゃんの想いも…聞かせて欲しい」 「…………え」 突然の言葉に、脳がフリーズする…。 先輩は私の返答を聞かず、走って逃げるように保健室から出て行った。 「……む、向井先輩…」 「何だぁ…お前ら……青春かよ…」 そう揶揄した先生の言葉に、思わず頬が熱くなる。 …向井先輩の想い、私の…想い、か。 …どうしよう。 保健室のベッドを1つ借りて、布団に潜り込む。 ………分からない。 答えの正解が分からなくて。 私は初めて、雨が降らないことを祈った。
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