雨と先輩

2/4
前へ
/27ページ
次へ
私は、市内唯一の進学校に通う2年生。 クラスでは目立たない方で、勿論、男子とも縁が無い。 友達と馬鹿を言いながら過ごすだけの毎日だったから…向井先輩に頭を触られた時、本当にびっくりしたんだ。 初めての経験で、何故か分からないけれど心臓がドキドキした。 「美久、聞いて!!」 「どうしたの、梓」 友達の山寺(やまでら)(あずさ)。 高校に入学してすぐに出会い、今ではいつも一緒にいる大切な友達。 「向井先輩がね、昇降口のところに立ってたから手を振ってみたの!! そしたらね、振り返してくれたんだよぉ!!」 「そ、そうなんだぁ。良かったね!」 「もう無理、今日が命日でも良い!!」 「それは大袈裟だよ…」 実は梓…向井先輩に片想いをしている。 遠くから見るだけで幸せなんて言って、そんなにアプローチはしない。 今みたいに手を振ってみたり…そんな程度。 「本当にかっこいい...。向井先輩、彼女いるよねぇ」 「どうだろうね…」 梓、こんな感じだから。 この前起こった向井先輩との出来事については話さず、私の胸の中に留めている。 …先輩に口止めされたというのもあるけれど。 頭に触れられたなんて言ったら…梓は発狂してしまうに違いない。 「キャー!! やばい、向井先輩……!!」 騒がしい教室の窓際。 その声につられて梓と窓際に移動すると、笑顔で手を振っている体操服姿の向井先輩が居た。 「うっわ……鼻血出そう……」 「梓……」 爽やか。 そんな一言がぴったりの向井先輩。 だけど私は、どうしてもあの時の何とも言えない表情の方が、少し気になってしまっていた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加