雨と先輩

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あんなに少ししか話していないのに。 私の名前を覚えているなんて…そこに驚いた。 「何、俺の顔でも見に来たの?」 「違います。通り掛かっただけです」 先輩の横まで歩き、軽く会釈をして… 「先輩、さようなら」 そう一言告げて、昇降口に向かった。 しかし、そんな私の足を先輩の一言が止める。 「……美久ちゃんは、他の子と違うね」 「…………」 その言葉の意味を、深く考えたくなかった。 「…さようなら」 自分の意志で向井先輩の姿を見に行ったのに。 実際会うと…何を話したら良いのか全然分からない。 意味が分からない、自分。 「待って、美久ちゃん」 「……」 また、呼び止められる。 振り返ると先輩は…ゆっくりと手を振っていた。 「雨が降ったら…またここに居るから…」 まるで私がここに居た理由を…見抜いているかのような先輩…。 そんな先輩に、何も言えなくて。 私はただ、小さく頷くことしかできなかった。
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