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「なぁ孫よ。せっかくだからワシの昔話を聞いていけ」
「じゃあお年玉追加でちょうだい」
「それは無理じゃが、まぁまぁ聞いていけ」
「やだ」
「まぁまぁ聞いていけ」
「やだ」
「まぁまぁ……」
おじいちゃんは昔話をする時は決まって強行突破してくる。まるでNPCみたいだ。
「遠い昔、西方の大陸でドラゴンを倒した時の話をしようかの」
「……」
「そう。あれは寒い日のことじゃった。吹雪が酷くて馬車は使えんし、今みたいに四方八方至る所に転移陣なんかない時代じゃったかったからの。数週間かけて山まで歩いて向かったんじゃ。孫よ、わしのパーティーメンバーは覚えているかの」
「剣聖 アレス=トレイル
賢者 フェドレア=マフムード
大聖女 リアン=フレデリカ
精霊 ウラメス
そしておじいちゃん。大盗賊……」
「そうじゃ。大盗賊ディレアス=フレスキア。口に出して言うとちょー恥ずかしいのー」
「……」
「話に戻るが、山に向かう途中にハプニングが起きてしまったんじゃよ。そうあれは寒い日のことじゃった、じゃった」
「……(2回言ったな)」
「大聖女リアンが死んでしまったんじゃ」
「!?」
「まぁまぁそう驚くことじゃない。冒険者だからそういうこともあるんじゃが、今回はそう簡単には収まらなくての」
「どうやら殺人事件だったみたいでの。そこからパーティーは大惨事じゃった。始まってしまったんじゃよ。犯人探しが」
「……」
「しかし中々犯人の検討がつかなくての。なんて言ったって、リアンはバラバラにナイフで切り刻まれていたんじゃからの!」
「……(なんで強調して言ったんだ)」
「証拠もない。動機も分からない。殺害現場を目撃した者もいない。かと言ってその辺の雑魚モンスターにやられる大聖女では無いからの。誰かがやったに違いないんじゃ」
「……」
「1番最初に疑われたのは剣聖じゃった。その大きな剣で寝込みを襲って瞬時に切り刻んだのではないかと。それに奴には動機があったらしくての。
どうやら奴は精霊と大聖女で二股かけてたらしいのじゃ。どうやって精霊とやるんだって感じだが、それは置いといて。
精霊が自白したんじゃ。剣聖が大聖女に纏わりつかれていてうざいと話していたということを」
「……」
「精霊もさすがに殺人までして結ばれたいとは思っていなかったみたいじゃった。そっからは剣聖が犯人で確定というムードでの。そんなことで人を殺す奴とは一緒に旅出来ないじゃろ?
だから剣聖を処刑することにしたんじゃ。剣聖はずっと〝俺はやってない〟の一点張りじゃったが、そんな戯言に耳を傾けるものなどおらんかった」
「……」
「そうしてパーティーメンバーは5人から3人になってしまったが、ドラゴン討伐に向かうべく雪山に登り続けた。3人でも十分倒せると判断したんじゃ」
「……」
「時は過ぎて、ドラゴン討伐完了時まで移りゆく。予想通り3人でも余裕を持って討伐することが出来た。が、そこでまた事件が起きたんじゃ」
「……!」
「精霊と賢者が死んだのじゃ」
「???」
「というわけで、ワシがドラゴン討伐の報酬を全て独り占めした時の話はこれで終わりじゃ。どうじゃ? 大盗賊の異名は伊達じゃないじゃろう? はっはっは」
「……(そういえばさっき大剣じゃなくてナイフで切り刻まれたって言ってた気がする)」
満足そうに大笑いするおじいちゃんを見て、僕は怖くなってしまった。お金のためなら人までも殺してしまうその残虐性に。
そしておじいちゃんの顔を再び見て、また怖くなってしまった。
おじいちゃんの怯える顔。
「……待つんじゃ。なんのつもりじゃ孫よ!」
おじいちゃんの瞳には、ナイフを握る少年の姿が映っている。
もう一度言う。僕は怖くなってしまった。
お金のためなら人までも殺せてしまうその残虐性に。
「お年玉!!!」
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