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 帰り道、茂みで葉擦れの音が鳴ったと思ったら、勢いよく茶色のかたまりが飛び出してきた。 「きゃあああ……っ!」    びっくりしてヒューゴに飛びつく。魔物かもしれないと思い、カタカタ震えてしまうと優しく抱きしめられた。 「ごめん、エリサ。大丈夫だよ。ただの兎だよ」 「ほ、本当だ……。ご、ごめん、びっくりしちゃった……」  背中を優しく撫でられる。ちゃんと笑ったつもりなのに、私の顔を見てヒューゴが泣きそうな顔になった。きっと、ひどい顔をしているのだろう。  いつも兎やリスが近くにいるのをヒューゴが教えてくれて、二人で可愛いねって見ていたから、こんな風に驚くなんて自分でも思っていなかった。 「ヒューゴ……私、薬草が大好きだったはずなのに、今は薬草を採りに行くのが怖い……薬師失格だ……」  込み上げた涙が決壊して頬を伝うと、ヒューゴにきつく抱きしめられた。 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」   ܀ꕤ୭* ܀ꕤ୭* ܀ꕤ୭*  翌朝、腫れぼったくなった目を冷やしていたら、玄関の扉がノックされた。ウルーフ家の執事のセバスチャンさん。 「エリサ様、一緒に来ていただけませんか?」 「えっと、今日は……」 「ヒューゴ様に頼まれております。ふむ、屋敷に着くまでに目の腫れが引けばよろしいでしょうかな」 「えっ、あっ、そうですね……?」 「セバスにお任せください。さあ、参りましょう」  少し強引なセバスチャンさんに促されるまま馬車に乗り込む。ヒューゴの屋敷までは馬車で二時間。セバスチャンさんが甲斐甲斐しく目元に冷えた布を当ててくれる。 「あの、ヒューゴになにか……?」 「エリサ様、驚かないでほしいのですが、」  セバスチャンさんは一度言葉を切って、私をまっすぐに見つめた。
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