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「お薬作るからちょっと待っててね」
「くうん?」
河原に落ちてる平らな石を台にする。そこに大きなつるつるな葉っぱを置き、さっき摘んだばかりの赤い実を数個乗せた。綺麗な石を選んで赤い実を潰していく。応急処置するならこれでいいはず。
「わんちゃん、ちょっと染みると思うけど我慢してね?」
「……きゅうん」
どろりとした赤い液体を指で掬って子犬の傷に塗ると、子犬の足が反射的に下がる。
「っ! きゃん……っ!」
「ごめん、染みるよね……。もうちょっとだから頑張って!」
「きゅ、きゅうん……」
「うん、偉いね。いい子だね」
おずおずと前足を差し出されたので、素早く傷口に液体を塗り終えハンカチできゅっと巻きつけた。
「これで大丈夫だよ! お家に帰ってもいいよ」
「……きゅうん?」
「わんちゃん、お家わからないの? よかったら一緒にくる?」
「わふっ!」
嬉しそうに尻尾をぶんぶん振るから抱き上げると、鼻をぺろりと舐められた。
「ふふっ、くすぐったいよ!」
「きゅうん」
「甘えん坊さんなんだね、かわいい。これからよろしくね」
「わふっ!」
はち切れそうなくらい尻尾を振る子犬を家に連れて帰ったら、子犬じゃなくて狼だった。さらに、行方不明中の領主の子どもだと発覚したから村中が大騒動に。
直ぐに立派な馬車が迎えに来て、あっという間に子犬が連れて行かれてしまい泣き腫らした翌日。
「わふっ!」
もう二度と会えないと思っていた子犬、いや、狼かつ領主の子どもが翌朝に家の前に座っていて、私は目をぱちくりさせる。だって、もう一度会えたことより、灰色だった子犬が煌めく銀色になって目を奪われたから。
܀ꕤ୭* ܀ꕤ୭* ܀ꕤ୭*
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