腹黒い女

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腹黒い女

彼女は、俺の部屋で自分の腹を裂いて死んでいた。彼女とは、合鍵を渡すほどの深い関係だった。だから最初は、俺が彼女を殺したのではないかと警察に疑われたが、検死結果で彼女が死亡した時刻に俺は会社にいて仕事中というアリバイがあり、しかも、彼女が凶器となった包丁を、自分で購入していたのが、お店の防犯カメラから判明し、スマフォから遺書らしきメモが見つかったので、俺の無罪は証明された。 遺書には、もちろん、自殺の理由も書いてあり、彼女が何股もして、その中から将来有望そうな男を選んで結婚しようとしていると悟った俺が、彼女を『腹黒い女だ』と罵ったことを恨んで、俺の部屋で自殺したと分かった。 だが、どうも、死亡推定時刻を考えると、彼女は死ぬつもりはなかったと思う。腹を裂いても自分の息のあるうちに俺が帰宅して、血まみれの彼女を見て、また俺が『腹黒い女だ』と罵ったせいで自殺を図ったとメモで知れば、俺が一生彼女に頭が上がらず言いなりになるだろうと自殺したふりをしようとして、腹を切り過ぎて俺が帰宅する前に死んでしまったと思う。 実は、前にも同じように俺が彼女の浮気を疑ったとき、彼女は手首を切る自殺未遂をしていて、その責任を感じた俺はその後、彼女にすごく優しくしたことがある。それを覚えていて、腹を裂いて自殺未遂をすれば、何股もしていたことを俺が不問にして下僕のように彼女に優しくすると考えたのではないかと思う。 だが、彼女が死んでしまっては、本当のところは分からない。
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