ゆらぎ

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水族館の入り口に飾られた時計はデジタルで、15:15の数字を表示していた。時計の下にはご丁寧に「電波時計 2022年寄贈」とプレートが掲示してあったので、時間は間違いない。 それでも太陽は自分の時計も確認し、小さくため息をついた。 (前はこんなんじゃなかったのになぁ) 瑠奈と約束した時間から既に1時間以上過ぎている。 無駄だと思いながら瑠奈のスマホに電話をしたけれど、やはり電源は入っていないと言うアナウンスが流れるだけだった。 『いつもその人と会う時は、日下部くんから電話あったら困るから、電源切ってるって聞いた』 奈帆に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。 太陽はスマホをポケットに戻すと、帰ってしまおうかと迷った。 (でも、もし自分が帰った後に瑠奈が来たら?) いつもそう思って待ち続けてしまう。 何度も約束をすっぽかされている太陽を見かねて、友人の山里は「いい加減、吉高のことやめたら? やってることひどいよ」と顔を合わせる度に言ってくるようになった。 (そうかもな……) それでも、太陽が瑠奈と別れようと思わないのは、瑠奈が自分のことを好きだと感じるからだった。 (でも、好きだったら何をしても許されるわけじゃないよな……) 太陽は、スマホを入れたポケットとは別のポケットに入れていた、水族館のチケットを取り出すとぼんやりと眺めた。 「君、日下部太陽(たかやす)くん?」 名前を呼ばれて、見ると目の前にスーツ姿の男が立っていた。 眼鏡をかけていて、いかにも仕事ができそうな年上の男。 「そうですけど、誰ですか?」 「僕は、瑠奈の浮気相手。いや、今はもう君の方が浮気相手になるのかな」
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