ゆらぎ

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太陽は、ずっと握りしめていたせいでぐちゃぐちゃになった水族館のチケットを持って、ひとりで入り口に向かった。 入り口でチケットを2枚出すと、受付の女性は太陽の後ろを覗き込んだ。 けれども何か言うわけでもなく、そのままゲートを通してくれた。 休日の水族館は家族連れやカップルでにぎわっていて、ひとりでいる太陽は随分と浮いているように見える。 それでも、そんなことはお構いなしに順路の矢印に沿って、太陽は中を回っていく。 大きな水槽の前に着いた時、「ほら、マンボウがいる。大きいよなぁ」と、周りには聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。 アマクサクラゲの水槽の前で立ち止まった太陽は、「こいつは、刺されたらすごい痛いやつ」と言って、その長い触手がドレスの裾のようにひらひらと動く姿をしばらく眺めた。 イワシの群れがぐるぐると円を描くように泳ぐ水槽の横を通りながら、小ぶりなノコギリザメがゆっくりとその姿をアピールするかのように通り過ぎて行くのも見た。 この水族館では時間が来ると、ペンギンが館内を散歩する。 子供達に囲まれながら、太陽の前をペンギンが通り過ぎて行った。 出口付近まで行くとショップがあり、たくさんの海の生物を模したぬいぐるみが飾ってあった。 ショップの入り口にはキーホルダーがひっかけてある棚があり、高校生らしきカップルが、かわるがわる手に取って見ていた。 そのすぐそばには、小さな瓶が置かれた棚がある。 『太陽の砂』 『星の砂』 プレートに惹かれ、太陽は星の砂の瓶を手に取った。 『星の砂は、願い事の成就や幸せのお守りとされています』 そんなフレーズの下に「原生生物である有孔虫(バキュロジプシナ)の殻」とご丁寧に書かれている。 (この説明、余計じゃね?) そう思いながら、次に太陽の砂の瓶を手にした。 『太陽の砂には、約束され未来という意味があります』 と書かれ、その下には「原生生物である有孔虫(カルカリナ)の殻」と説明書きがある。 しかも、「沖縄産」と記載まであった。 もはや、どこのお土産なのかわからなくなる。 (月の砂があればよかったのに……) そう思いながら、太陽は『太陽の砂』と『星の砂』の瓶を手に取り、レジに向かった。 2つの小さな袋をポケットに入れた太陽は、水族館を出て、ひとりで駅に向かいながらつぶやいた。 「オレ、何やってるんだろう?」
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