アルバイト

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遊ぶところもない島だったので、一日の終わりに、太陽と金井の部屋に碓井が来て、ジュースとお菓子を食べながら雑談をするのが日課だった。 バイトも折り返しに入って、打ち解けた3人は、ポツポツと個人的な話もするようになっていた。 「太陽さぁ、お前なんでそんなに元気なの?」 「オレ? 何でって言われても……楽しいから?」 「日下部くん、楽しんでるの?」 「え? 楽しんでないの?」 「うわぁ、いるんだ、こういう人。私、かなりきてるよ。朝起きるの辛い」 「おれも夕方くらいになると意識飛びそうになることある。日下部、マジ尊敬する。子供らもお前にはかなり懐いてるしな」 「懐いてるっていうか、同レベ扱い?」 「確かに! みんな『太陽こっち来いよ』とか呼び捨てだよね」 「でも、お前が注意したら言うこと聞くよな。おれらがいくら言ってもダメな時でも」 「そんなことないと思うけど。普段ヘラヘラしてるから注意したら単に『やばっ』って思うだけだよ」 「なるほどなぁ。おれさ、教員目指してるから今の参考にするよ」 「私はこういうイベントとか企画する仕事やりたくて参加したんだけど、実際にやるのって大変なんだね。日下部くんはどうしてこのバイトしようと思ったの?」 「オレ? 日給」 「正直者」 「お金ためてどうするの?」 「あー、まぁ……」 「女だ! 女だろ?」 太陽は今の状況を説明することもできず、金井の言葉を誤魔化すようにテレビをつけた。 「ニュースでも見よ、ほら」 島では国営放送以外のチャンネルが映らなかったので、ニュースしか見るものがない。 テレビをつけると、ちょうど太陽がフットサルの練習するグラウンドの近くでトラックと乗用車の正面衝突の事故があった、というニュースをやっていた。 その追突事故で、跳ね飛ばされた車が更に周りの自動車を巻き込み、大事故に繋がったというもので、死傷者まで出る事態となったことをアナウンサーが告げた。 「ここ、オレがよくフットサルの練習行ってるとこの目の前だ」 「そうなの? 怖いね」 「待った! これ、11時のニュースじゃん! そろそろ寝ないと明日もハードなんだから死ぬって」 「本当だ。私も部屋に帰るね。おやすみなさい」 「また明日な!」 「おやすみ」 バタバタと寝る支度を始めながら、金井が言った。 「なぁ、彼女の写真見せてよ」 「あー……ない……写真嫌いって」 「そういうもん? 女って何でも写真に撮りたがるのかと思ってた」 「オレも、前はそうかと思ってた」 「もしかして、上手くいってないとか?」 「何で?」 「さっき、おれが話振ったら誤魔化したから。普通はああいう時自慢するもんじゃん」 「そっかぁ」 「ケンカ?」 「もう、ダメかも」 「ふうん。まぁ、片方がダメって思ったら、もうダメだよな」 「そうなのかな?」 「少なくとも、おれはそうだった」 太陽が黙ったので、金井も何も言わなくなった。 そのうち金井の寝息が聞こえてきて、太陽も目を閉じた。
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