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「寝ている時」
夜中にふわっと顔に風を感じて、日下部太陽がうっすらと目を開けると、隣に寝ていたはずの吉高瑠奈が窓を開けて外を見ていた。
カーテンが風でゆっくりと揺れている。
そのカーテンが風にゆらめくタイミングで、時折、瑠奈の横顔が見える。
外はあいにくの曇り空で、月も星もない。
近くにある街灯のおかげで、ぼんやりと瑠奈の横顔が見えるだけだった。
瑠奈は窓枠に肘をつき、まるで祈るようにクロスさせた指に自分の唇を押し当て、外を見ていた。
(泣いている?)
太陽の見間違いでなければ、瑠奈の頬を涙が伝っていた。
「太陽、好きだよ……」
確かに瑠奈はそう呟いた。
太陽は、すぐにでも後ろから抱きしめたいという衝動に駆られたものの、そうしなかった。
やがて瑠奈は、仰向けで寝ている太陽の肩に自分の額をくっつけると、その細い腕を太陽の胸の下辺りにしっかりと、まるで抱きしめるかのように巻きつけてきた。
太陽は平静を装い、いつものように寝たふりを続ける。
一緒のベッドで寝ていても、2人の間にはまだ「関係」はない。
付き合って数カ月経つし、瑠奈が太陽の部屋に泊まりに来ることも一度や二度ではない。
それでも2人の仲が進展しないのは、瑠奈が頑なにそれを拒むからだった。
「結婚するまでは」なら聞いたこともあるけれど、瑠奈の理由は別のものだった。
「クリスマスまでは嫌」
太陽にしてみればよくわからない理由だった。
けれどもそれは、裏を返せば「クリスマスが来たらOK」という意味にもとれる。
だったら、それまで待てば良いだけのこと。
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