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長かったような10日間のバイトは、ロータリーで子供達が迎えにきた親の元に戻るのを身届けて、終了となった。
太陽も帰ろうとした時、森が声をかけてきた。
「日下部くん、君、最後まで元気だったね。それに子供達の扱いも上手かった。何かそういう経験あるの?」
「ボーイスカウトに入ってたんです。親がそういう活動好きで、結構長くやってたからでしょうか」
「なるほどね。5日後にまた同じプログラムがあるんだけど、来ない?」
(バイトする意味あるのかな……)
太陽はそう思ったものの、この10日間は、子供達と過ごすことに夢中で、瑠奈のことを考えてしまうことがほとんどなかったことに気がついた。日中とことん体を動かすのが効いて夜もよく眠れた。
「行きます」
「良かった! 内容は今回と一緒だから。すぐに契約書を作るので、悪いけど明日事務所に来てもらっていい?」
「はい」
「助かるよ。この仕事さ、大変だけど終わった後いいことあったりするから」
森がにこにこ笑って見せた。
(給与の明細見て嬉しくなるってことかな?)
そんなことを思いながら、森に挨拶をして久しぶりにマンションへ戻った。
バイト中、何度か瑠奈に連絡をしようか迷ったものの、太陽は結局電話をかけなかった。
マンションの部屋のベランダの窓と、ベッドのそばの窓を開けて、こもった空気を入れ替える中、太陽はベッドに横たわった。
風が太陽の顔を掠める。
『太陽、好きだよ……』
その声に、太陽は身を起こした。
あの夜の、祈るような瑠奈の姿を思い出した。
(碓井の言った通りだ。終わるにしてもあんな終わり方はだめだ)
太陽は瑠奈に電話をかけた。
けれども、やはり瑠奈のスマホは電源が入っていないことを知らせるアナウンスが流れただけだった。
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