瑠奈と奈帆

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瑠奈と奈帆

「瑠奈と初めて会ったのは小学1年生の夏休みが終わった後。その頃のわたしはちょっとばかりクラスでいじめにあってたの。理由はこれ」 奈帆はそういうと、後ろの髪の毛を上に持ち上げて、太陽に自分の首筋を見せた。 首筋から着ているブラウスの下に向けて、目立つ火傷の痕があった。 「プールの授業でこの火傷の痕を見られてから、わたしが触ったものは『気持ち悪い』って言われるようになって孤立してた。そこへ瑠奈が転校してきた。先生は、瑠奈の体は丈夫じゃないから、瑠奈が少しでも気分が悪そうだったらすぐに誰かを呼ぶようにみんなに言ったの。子供って、火傷の痕がある子をいたわることはできなくても、『体が弱い』と言われた子には優しくできるんだよね」 奈帆は昔のことを思い出したせいか、寂しそうな表情で話を続けた。 「瑠奈は、いつも一人で、誰とも仲良くなろうとはしなかった……」 「早手くん、これ消しゴム落ちてたよ」 奈帆は机の下に落ちていた消しゴムを拾って渡そうとした。 「井坂、おれのもんに触んなよ! キモイのがうつるだろ! お前のせいで消しゴム使えなくなったじゃん!」 「う、うつらないもん」 「やばー。井坂のさわったもんさわったら手洗わないと。こっち来んな!」 泣きそうになった奈帆のところに、一人で本を読んでいた瑠奈がやって来て、奈帆の持っている消しゴムを奪って言った。 「いらないんなら、わたしがもらっていい?」 「吉高、そんなもんさわったら、キモイのうつるぞ!」 瑠奈はニコッと笑って、早手の腕に触った。 そして、「あっ」と言って、その場のしゃがみ込んだ。 「吉高?」 「吉高さん?」 「早手くんに触ったら……息が苦しくなってきた」 「え?」 「早手くんに触ったら具合が悪くなる……先生に言わないと……」 そう言ってぜいぜいと息をし始めた。 「お、おれ……おれ……」 早手はそれ以上何も言えず、その場から走って逃げた。 「吉高さん、大丈夫? 先生呼んでくるね!」 奈帆が行こうとした時、しゃがんだままの瑠奈が奈帆のスカートを掴んで、舌を見せた。 「え?」 瑠奈はすくっと立ち上がると言った。 「火傷の痕、見せて」 奈帆は恐る恐る後ろを向いて、髪の毛を持ち上げると瑠奈に火傷の痕を見せた。 瑠奈はそれを触ると言った。 「痛い?」 「痛くないよ」 「井坂さんは元気なんだよね?」 「うん」 「だったら良かった。気にすることないよ」 その一件があってから、早手は瑠奈から距離を置くようになり、奈帆のこともからかわなくなった。 そして、奈帆は瑠奈に度々話しかけるようになった。 最初のうち、瑠奈は壁を作って奈帆を受け入れようとしなかった。 それでも、めげずに奈帆は瑠奈に話しかけ続けた。 そしてある日、瑠奈は奈帆に言った。 「わたし、いつ死ぬかわかんないから。友達になったら損するよ」 「それ、もしわたしがそうだったら、吉高さんは友達になってくれないの?」 「そんなことない!」 「わたしもそんなことない」 奈帆の言葉に、瑠奈は泣きながら笑った。
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