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次の日の朝、瑠奈は起き上がれなかった。
部屋から出てこない瑠奈を心配して、母親が様子を見に来た。
「瑠奈、昨日眠れなかったんじゃない? ずっと咳してるのが聞こえた」
そのことを知っているということは、母親も寝ていないということになる。
「……ごめんね」
「手足もむくんでる」
「……ん」
「大学、休みなさい」
「出席日数足らなくなる」
「しょうがないじゃない。今は、ゆっくり休んで」
出席日数が足りたところで、2年生になれるかどうかも分からない。
瑠奈も母親もわかっていながら、そんな会話を続けた。
昼になって、リビングのテーブルに置きっぱなしにされていた瑠奈のスマホが鳴った。
朝から数えて3回目だった。
母親がそれに気がついて、スマホを瑠奈のところへ持っていくと、瑠奈は画面に表示された名前を見て、出るのを躊躇した。
それを見た母親が、瑠奈の手からスマホを取って通話ボタンをタップすると、すぐにスピーカーにした。
「はい」
「吉高? 日下部だけど、今日学校休んだからどうしたのかと思って」
「瑠奈は今出かけていて。初めまして。瑠奈の母です」
「あ! 初めまして。同じ大学の日下部と言います。吉高さんが今日学校に来られなかったので、心配で電話しました」
「瑠奈は……元気なんだけど、私が昨日の夜腰を捻っちゃって。動けないものだから、大学を休んでついててくれてるんです」
「そうなんですか」
焦っていたような太陽の声が、ホッとするのが瑠奈にも母親にもわかった。
「あの、何かお手伝いできることがあったら言ってください。力はある方だと思うので」
「ありがとう。もう大丈夫だから」
「それで……吉高さんは?」
「ごめんなさい、瑠奈に買い物頼んでて、しばらく帰って来ないの。スマホを置きっぱなしで出ちゃったから。何回かかけて来てくれてたから電話に出たんだけど、ごめんなさい」
「いいえ。こちらも何度もすみませんでした」
「瑠奈に後で電話するように言いますね」
「いえ、それは大丈夫です。元気だってわかったので、また大学で話します」
「そう……日下部くん、瑠奈のこと、お願いね」
「え? あ、はい。お大事にされてください。それでは、失礼します」
電話を切ると、母親はスマホを瑠奈に渡した。
「日下部くん、瑠奈が大学を休む度に、心配して電話してくるんじゃない?」
「……うん」
「何か食べれそう?」
瑠奈は黙って首を振った。
「もう少し寝てなさい」
「うん」
母親が部屋を出て行くと、瑠奈はスマホの電源を切った。
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