瑠奈の日記

4/22

45人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
次の日の朝、瑠奈は起き上がれなかった。 部屋から出てこない瑠奈を心配して、母親が様子を見に来た。 「瑠奈、昨日眠れなかったんじゃない? ずっと咳してるのが聞こえた」 そのことを知っているということは、母親も寝ていないということになる。 「……ごめんね」 「手足もむくんでる」 「……ん」 「大学、休みなさい」 「出席日数足らなくなる」 「しょうがないじゃない。今は、ゆっくり休んで」 出席日数が足りたところで、2年生になれるかどうかも分からない。 瑠奈も母親もわかっていながら、そんな会話を続けた。 昼になって、リビングのテーブルに置きっぱなしにされていた瑠奈のスマホが鳴った。 朝から数えて3回目だった。 母親がそれに気がついて、スマホを瑠奈のところへ持っていくと、瑠奈は画面に表示された名前を見て、出るのを躊躇した。 それを見た母親が、瑠奈の手からスマホを取って通話ボタンをタップすると、すぐにスピーカーにした。 「はい」 「吉高? 日下部だけど、今日学校休んだからどうしたのかと思って」 「瑠奈は今出かけていて。初めまして。瑠奈の母です」 「あ! 初めまして。同じ大学の日下部と言います。吉高さんが今日学校に来られなかったので、心配で電話しました」 「瑠奈は……元気なんだけど、私が昨日の夜腰を捻っちゃって。動けないものだから、大学を休んでついててくれてるんです」 「そうなんですか」 焦っていたような太陽の声が、ホッとするのが瑠奈にも母親にもわかった。 「あの、何かお手伝いできることがあったら言ってください。力はある方だと思うので」 「ありがとう。もう大丈夫だから」 「それで……吉高さんは?」 「ごめんなさい、瑠奈に買い物頼んでて、しばらく帰って来ないの。スマホを置きっぱなしで出ちゃったから。何回かかけて来てくれてたから電話に出たんだけど、ごめんなさい」 「いいえ。こちらも何度もすみませんでした」 「瑠奈に後で電話するように言いますね」 「いえ、それは大丈夫です。元気だってわかったので、また大学で話します」 「そう……日下部くん、瑠奈のこと、お願いね」 「え? あ、はい。お大事にされてください。それでは、失礼します」 電話を切ると、母親はスマホを瑠奈に渡した。 「日下部くん、瑠奈が大学を休む度に、心配して電話してくるんじゃない?」 「……うん」 「何か食べれそう?」 瑠奈は黙って首を振った。 「もう少し寝てなさい」 「うん」 母親が部屋を出て行くと、瑠奈はスマホの電源を切った。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加