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×月×日
写真は撮らない
後に残ってしまうようなものは残さない
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学校の帰り、駅前のカフェで、瑠奈は奈帆からもらったお土産を太陽に渡した。
「ありがとう。オレ、実家帰ってたから何もなくて」
「何もいらないよ」
「写真ないの? 見せて」
「撮ってない」
「旅行に行って?」
「あ、景色だけなら」
「瑠奈は奈帆からもらった写真を太陽に見せる。
「へぇ、きれいなとこ」
「うん……景色もご飯も美味しかったよ。日下部くんは? 実家で何してたの?」
「ジェシーといちゃついてた」
「ジェシー?」
「あ、実家で飼ってるゴールデンレトリバー。写真見る?」
「見たい!」
「待って」
太陽はスマホのアルバムを開くと瑠奈に見せた。
「大きい」
「今はもうおばあちゃんだからそうでもないけど、昔は力が強くて、オレが散歩に連れて行ったら、どっちが散歩させられてるのかわかんない感じだった」
「そうなんだ」
話ながら、瑠奈はたくさんあるジェシーの写真をスライドして見て行く。
「実家にいる時はいつも一緒に寝ているんだ」
「本当だぁ」
瑠奈のその返事に、太陽がスマホを見る。
寝ている太陽がジェシーをぎゅっと抱きしめている。
「それ、弟がふざけて撮ったやつ」
「いいなぁ、ジェシーは。日下部くんに愛されて」
「いつでも、抱きしめるけど。吉高のことも」
最後の方は小声だったけれど、それを聞いて瑠奈が恥ずかしそうにうつむいた。
「あ、冗談です」
「わかってる」
「ちょっと本気」
「ちょっと……」
「だいぶ」
瑠奈が笑ったので、太陽もつられて笑った。
「もう、帰らないと」
「ああ、うん」
店を出てからも、ずっと話しながら2人は改札に向かって歩いた。
「今度、2人でどこか行こう。どっか、行きたいとこあったら言って。それで、2人の写真撮ろう?」
「写真……」
「そう」
「写真は……好きじゃない」
「あー、そっか。旅行の写真も撮ってなかったんだった」
「ごめんね」
「いいよ。嫌なことは嫌って言って」
「ありがとう……あのね、どこにも行かなくていい。こうやって話してるだけで」
「それだと付き合う前と変わらないけど?」
「変わったよ。す、好きって言ってもらった」
「やばっ」
「何?」
「可愛すぎる」
「そんなこと言われてもグミくらいしかあげられるもの持ってないよ?」
「じゃあ、グミちょうだい」
「いいよ」
瑠奈はカバンからグミの袋を出すと太陽に渡そうとした。
「そうじゃなくて」
太陽の言っている意味が分からず瑠奈はきょとんとしている。
「食べさせて」
「えっ!」
「いいじゃん」
「でも……」
「早く」
瑠奈は袋の中のグミを一粒太陽の口に運んだ。
その時、瑠奈の指が太陽の唇に一瞬ふれる。
「サンキュ。じゃあ、また明日!」
「また、明日」
瑠奈は太陽にふれた方の指先を、もう片方の手でぎゅっと握った。
瑠奈が電車に乗ってしばらくした頃、太陽からメッセージが届いた。
<できればもっといちゃいちゃしたいです>
それを読んで、瑠奈は思わず周りをきょろきょろした。
そして、もう一度メッセージを読んで、どう返事をしたらいいのかわからず困ってしまった。
そうは言っても、既読をつけたのに返信を返さないままでいるわけにもいかず、瑠奈は悩みに悩んでようやく返事を送った。
<ジェシーの許可をいただければ>
瑠奈の返信はすぐに既読がついて、すぐに返事が返ってきた。
<ジェシーはオレのこと超好きだから 説得します>
メッセージを読んで瑠奈は笑いそうになって、電車の中にいることを思い出して我慢した。
そして、返事を送った。
<ジェシーは わたしの最大のライバルだね>
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