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ショッピングモールのフードコートでアイスを食べながら、瑠奈が太陽に聞いた。
「太陽って、どうして一人暮らししてるの?」
「どうしてって?」
「だって実家、大学から近いよね?」
「あー、それ? ジェシーが子犬の頃さ、母さんがかわいい服を着せたがって、ミシン買って縫い始めたんだけど、ジェシーは服嫌がって着なくて。でもミシンせっかく買ったからって、小物とか作り始めて。そうしたらそれにハマって、趣味でいろいろ作るようになったんだ。いつもリビングで布広げてやってたんだけど、いろいち片づけるのがめんどうになったみたいで、オレが大学入るのと同時に家を追い出された」
「追い出されたの?」
「オレの部屋が母さんの部屋になって布だらけになってる」
「そうなんだ」
「ジェシーがいないのは寂しいけど、ひとり暮らしも悪くない。弟とケンカしなくてすむから」
「ケンカするの?」
「する。しょーもないことで。冷蔵庫の最後のプリンどっちが食べた、とかそういうので。でもそういうのに限って、親父が食べてたりして、全然関係ないオレらでケンカしてたってオチ」
瑠奈が楽しそうに笑う。
「あと、ネトフル契約したから誰にも邪魔されずに映画とか見放題なのはいい。この前、山里が泊まったんだけど、あいつドラマの一気見して次の日一日中寝てた」
「何見てたの?」
「イカだったかタコだったか、なんとかゲームってやつ。オレは先に寝たからわかんない。瑠奈は何か好きなのある?」
「悲しくならないやつかなぁ。映画だったらコメディで、テレビだったらお笑い番組が好き」
「一日中お笑い番組見れるよ」
「いいなぁ」
「そう言えば、週末、『超高速!参勤交代』と『超高速!参勤交代リターンズ』2本連続やるよ」
「それ何?」
「ずっごい昔、親父に勧められて見たんだけど」
そう言いながら、太陽はスマホで検索して、公式サイトのHPを瑠奈に見せた。
「面白そう」
「見に来る?」
「行きたい!」
「じゃあ、週末おいで」
「うん! 行く」
アイスを食べ終わった後もずっと座って話していた2人は、ようやく立ち上がった。
「今日はオレの買い物につき合わせたけど、どっか行きたいとこないの?」
「ないよ。話してるだけでいい」
「夏になったらキャンプとか……誰か誘ってコテージ借りてもいいし、釣り……は、行かないかぁ」
「太陽はアウトドアが好きなの?」
「からだ動かすの好きかも。瑠奈は?」
「わたしは……運動は苦手」
「海とか、プールで浮き輪で浮いとくだけとか、夏になったら花火大会もあるし。お祭りも」
「そうだね」
「でも、苦手なこととか嫌なことはちゃんと教えて。2人で出来ること探そう?」
そう言った太陽を見て、瑠奈は言った。
「手を、つなぎたい」
「そう……言われてつなぐのって恥ずい」
「ごめん」
「嬉しくて、って意味だから」
太陽は瑠奈の手をとった。
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