瑠奈の日記

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********************* ×月×日 調子が悪い日が続いてる 大学に行くことができない日が続いてる きっと太陽が心配してる 心配してくれる太陽に嘘をつきたくない 嘘をつくくらいなら「スマホの電源を入れておけ」って言われた方がいい ********************* ×月×日 もう少しだけ もう少しだけ時間が欲しい 体調が良くない それを太陽に知られたくなくて、もうずっとスマホの電源を切って大学を休んでる 太陽に嘘ばかりついてる 太陽に嘘をつくのが苦しい 本当のことを言ってしまおうか? ********************* ×月×日 男の人が泣いているのを見た その男の人は前に病院で見て知っていた 去年、奥さんを亡くされた人 男の人が声をあげて泣くところを初めて見たから、ずっと忘れられないでいた また、同じように泣いている 1年経ってもあんなふうに泣くんだ 太陽にバカな質問をした わたしがいなくなったらどうするか聞いてしまった 「もしも」って まるでありえないことを聞くみたいに 太陽の答えを聞いて、本当のことを言うのはやめようと決めた 太陽には泣いて欲しくない 早く終わりしないといけない ********************* 太陽は、瑠奈の日記をそこまで読んで、サイトを閉じた。 (あの時のことだ……覚えてる) よくあるカップルの「タラレバ」話だと、その時の太陽は思っていた。 それは、太陽のバイト先の居酒屋を瑠奈が見たいというので、一緒にご飯を食べに行った帰りのことだった。 2人とも未成年だったから、居酒屋に行ってもお酒は飲めない。 店長はそんな2人に「酒も飲めないくせに彼女を自慢しに来やがって! ムカつくやつだよな」と言いながらも、歓迎してくれて、酔っぱらいそうな男性客が近くに座らないように気を使ってくれた。 居酒屋に初めて来たらしく、瑠奈はメニューを見て「これは何?」「これは?」と質問しながら、楽しそうにしていた。 店を出たのは9時前だった。 服や髪についた炭火の匂いに、瑠奈は「2人とも美味しいそうになった」と言って、笑っていた。 そのまま太陽の家に泊まっていいかと聞かれ、2人で駅に向かって歩いている時だった。 「何でだよぉ」 その声に、太陽と瑠奈は立ち止まった。 正面から歩いてくる3人組の男性の真ん中にいる一人が、泣いている。 泣いている男性は、だいぶ酔っているようで、左右を友人らしき2人が支えていた。 「何で先に逝くんだよぉ。俺はどうすりゃいいんだよぉ」 顔をぐちゃぐちゃにして泣く様子は大人気ないものの、その悲しみが他人にも伝わってくる。 「会いたい。もう一回会いたい……」 「泣いてももう、奥さんは戻って来ないんだから」 「飲み過ぎなんだよ」 諌めるような言葉だったけれど、その口調で、泣いている男性を心から心配しているのがわかる。 3人の男性が横を通り過ぎて行くまで、瑠奈はずっと立ち止まっていた。 そして再び歩き始めると、太陽に向かって言った。 「ねぇ、太陽は大切な人が亡くなったらいつまで悲しいと思う?」 「そんな経験ないからその質問に答えるのは難しいけど、一生悲しみ続けるんじゃないかな」 「……もしも、それがわたしだったら?」 「そういうの、冗談でもやめろよ」 「教えて」 「……残りの人生毎日悲しみ続けると思う」 「毎日とか大袈裟」 「本心だって」 太陽のベッドで、一緒に寝ていても、瑠奈とは少しだけ距離がある。 それは、太陽のベッドがセミダブルの大きさだったからできることだった。 実家でいつも大型犬のジェシーと寝ていた太陽は、シングルベッドだと寝返りも打てないことから、セミダブルのベッドを使っていた。 そのクセで、一人暮らしをする時に、何の迷いもなくセミダブルのベッドを選んだ。 後から考えると、太陽のマンションにジェシーが来ることなどなかったのだから、無用な選択だった。 でも、そのおかげで、瑠奈と一緒にベッドで寝ても、嫌がる瑠奈にふれたりしなくて済む。 いつものように、太陽はずっと寝たふりをしていた。 その日の瑠奈は、いつもと違っていた。 太陽の髪の毛をしばらく撫でていた。 そのうち、太陽の頬に雫が落ちてきた。 (涙?) それに気がついた瑠奈は、慌てて太陽の頬をそっと自分の指で拭った。 太陽は、今すぐにでも起きて、その涙の理由を瑠奈に問いただしたかった。 でも、そうしなかった。 瑠奈は知られくないと思っている。 太陽が「寝ている時」のことを。
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