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×月×日
「こんな態度が彼氏に嫌われる」という特集の雑誌を買った
嫌われるようなことを太陽に言った
せっかく太陽がわたしのためにしてくれたことを台無しにした
書かれたことを全部やっているのに、太陽は怒らない
太陽に酷いことをしていると思うと苦しい
嘘ばかり
太陽に好きって伝えたい
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×月×日
20歳までは生きられないと言われてきた
いろんなことをあきらめてきた
心臓移植をするつもりはなかった
自分が生きるために誰かの死を待つのは嫌
でも
生きたい
そう思うようになってしまった
太陽の隣を歩いていたい
移植を希望する意思を先生に伝えた
奇跡なんて起こらない
わかってる
それでも、緊急連絡用にもう一つスマホを契約した
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×月×日
大学で倒れた
太陽の前で
夜、お母さんに「話をしよう」と言われた
大学を自主退学する話だった
思っていたよりタイムリミットが早かった
わかってる
今まで自由にさせてくれてありがとう
何も言わないでいてくれてありがとう
お母さんが泣いた
大切な人を残して逝ってしまうのと、後に残されてしまうのと、どっちが辛いんだろう?
その答えを知ってる
太陽ともっと一緒にいたかった
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夕食を終えた後、瑠奈の母親がまじめな顔をして言った。
「もう無理って自分でもわかってるよね? 明日、退学届を出そう」
「うん」
「太陽くんには本当に言わないの?」
「言わない」
瑠奈は太陽と付き合っていることを母親に話していた。
自分が無理をしても大学に行きたいことを説明する時に、「一度だけ恋をしたい」とお願いした。
母親はそれを承諾した。
瑠奈が付き合い始めたことを告げた時、反対をされなかった。
瑠奈が太陽の家に泊ることについても何も言わなかった。
母親が言ったことはただひとつだけ。
『絶対に太陽くんの前で倒れたらだめ。彼を苦しめることになるからね』
それだけだった。
「……お母さんね、瑠奈のことが大事で、瑠奈の幸せな顔を見たくて、瑠奈がいなくなった後、太陽くんがどんな思いをするか、わかっててずっと無視してきちゃった。太陽くんに悪いことしてるってわかってて何も言わないできた」
「悪いのはわたしだから」
「もう太陽くんに会うのはやめなさい」
「わかってる。全部終わりにする」
「……ごめんね、元気な体で産んであげられなくて。太陽くんにも謝らないといけない……」
目の前で泣く母親を見ながら、瑠奈は思った。
(ずるいのはわたし。太陽を傷つけることがわかってて、自分の気持ちを優先させたんだから)
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