瑠奈の日記

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********************* ×月×日 最後に太陽と水族館に行きたかった 太陽はきっといつまでも待ってる それなのにわたしは病院 夜になって太陽のマンションに行った これが太陽と会う最後にしようと決めていた 8月7日は大切な日 一昨年の夏、太陽と出会った日 この日から始まったから、この日で終わらせることにした ひどいことを言って嫌いになってもらうつもりだった 太陽の機嫌が悪い こんなの初めて わたしに怒っているのはわかった 望んでいたことなのに、どうしようもなく悲しい こんなに苦しいなんて思ってもいなかった 本当のことを言って謝ってしまいたい もう一度だけ太陽の笑った顔が見たかった 胸にあるほくろのことを聞かれて、「見せろ」と言われた 見せたら今度は「もういい」と言われた その時、緊急連絡用の方のスマホが鳴った 太陽はわたしがスマホを2つ持っていることに、信じられないという顔をした もうひとつのスマホの電源を切ってることを泣きそうな声で言われた 「帰れ」と言って小さな袋を投げられた 太陽は、もう顔を見せてくれなかった これでいい これで良かった これが望んでたこと でも太陽にまで悲しい思いをさせてしまった 傷つくのは嘘つきのわたしだけでいいのに 外に出てから太陽がわたしに投げた袋を開けたら、それは「太陽」だった 嬉しい 「太陽」とずっと一緒にいられる たった一つだけの形に残る思い出 太陽、どうかわたしを嫌いでいて 早くわたしを忘れて 他の誰かと幸せになってね ********************* 最後の投稿を読んだ太陽は、ずっと本棚の隅に置きっぱなしにしていた袋を開けた。 水族館で買ったのは2種類の砂。 太陽の手元にあったのは、星の砂だった。 それは、瑠奈に渡そうとしていた方だった。 太陽の砂が瑠奈の手に渡り、星の砂が太陽の手元に残った。 決して写真を撮らせようとしなかった瑠奈の、たった一つの形に残る思い出。 太陽はそれを瑠奈に投げつける形で渡した。 (オレは、どうしてあんなひどいことができた?) 『8月7日は大切な日』 瑠奈にとって大切な日を最悪なものにしたのは、太陽だった。 太陽が、最後に瑠奈を一番傷つけた。 それなのに、日記の最後、瑠奈は太陽の幸せを望んでいた。
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