わからないこと

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太陽が映画の約束を当日ドタキャンされた次の日、瑠奈は大学に来なかった。 その日に限らず、瑠奈は大学に来ない日がだんだんと多くなっていた。 見かねた太陽が、瑠奈の単位の心配をすると、「太陽には関係ない」と突っぱねるだけで、休んだ理由を聞いても「朝起きれなかった」「面倒だった」といういい加減な返事を返してくるだけだった。 「なぁ、お前ら上手くいってんの?」 大きな教室での授業中、一番後ろの席に座っていることをいいことに、山里が太陽に聞いてきた。 「なんで?」 「いや、なんかさぁ、前に比べて吉高さんの態度がなんて言うか……」 「はっきり言えよ」 「……変わったくない? 前はもっと『何もかも幸せ』みたいな感じで、何やるのも嬉しそうだったし、お前といる時は特に楽しそうに見えた。それがいつからか、すっごいお前のこと……雑に扱ってるって言うか……」 「そうなのかな……」 「もしかして……」 「何?」 「いや……」 「はっきり言えよ」 「怒るなよ?」 「怒らないから」 「お前……満足させてないとか」 「何を?」 「何って……アレだよ。アレ」 「『アレ』じゃあ、わかんないって」 「だから……お前……あっちの方がヘタクソとか」 「……それはない」 「あ? じゃあ、満足してんだ」 「……やってないから」 「はぁ? 嘘だろ? だって何回もお前ん家泊まってるよな?」 「何で知ってんだよ」 「そりゃあわかるよ見てたら。何で?」 「『クリスマスまでは嫌』って言われてる」 「何だそれ?」 「オレに聞くなよ」 「それで、家に泊めて何もしてないとか、お前、修行僧?」 「言っとけ」 「いやいや、ないない」 「オレたちが納得してるんだからいいだろ」 「お前も納得してるってこと?」 「オレは……でもまぁ、きっと初めてって言うのは大事なんだろうと思って」 「吉高さんって処――」 山里が言おうとすることを慌てて太陽がさえぎる。 「口に出さなくていいから。多分、だよ」 「そういうのわかるもん?」 「まぁ、なんとなく」 「ぶっちゃけ何人?」 「何が?」 「今までの数」 「知るか」 「いいじゃん、俺とお前の仲だろ?」 「そんな仲じゃない」 「ふんっ。で、クリスマスどうすんの?」 「ホテルミラコルテに泊りたいって言うから予約した」 「げっ……クリスマスのホテルミラコルテって激高だろ?」 「まぁ。でもまだ半年近くあるし、バイトすればいいかな、と思って」 「俺、吉高さん見る目変わった」 「なんで?」 「わがまますぎだよ、それ」 「そうかな?」 「お前、仏かよ」 「修行僧の次は仏って、何だよそれ」 「いやぁ、悪いこと言わないからさっさと終わった方がいいと思うけど……お前、興味ないみたいだけど、女子に結構人気あるし。ほら、井坂とか」 「井坂は、違うと思う」 「そーかぁ?」 「うん、それは確か」 山里と話していると、確かに瑠奈の行動はわがままともとれる。 けれども、一緒に過ごしている時の瑠奈はそんなふうではない。 その違和感の正体はわからないままだった。 (もしかして、オレって騙されてる?) そんな考えが頭をかすめたものの、太陽は一笑した。 なぜだか、「瑠奈に限ってそれはない」という確信めいた自信があった。
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