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ゆらぎ
大学が夏休みに入る前には前期試験がある。
大学によっては夏休みを楽しんだ後に試験というところもあるので、夏休み前にめんどうなことが終わるこの大学は、良心的なのかもしれない。
試験は一般教養が数科目と、英語、第二外国語という内容で、ほとんどの科目がレポートの提出で単位がもらえる。
そうは言っても、大学に入って初めての試験となるため、同じ学科の者同士数人が集まって放課後勉強したり、一緒にレポートを作成していたりする姿が多くみられた。
太陽も瑠奈を誘い、一緒に図書館へ向かった。
ノートPCを前に、太陽は真剣にレポートを作成していた。
途中、何気なく隣を見ると、瑠奈の手が止まっていたので、声をかけようとして、瑠奈が苦しそうに肩で息をしていることに気が付いた。
「瑠奈?」
声をかけたけれど、それすら耳にはいっていないようだった。
「瑠奈?」
もう一度名前を呼ぶと、ゆっくりとこちらを向いたものの、そのまま意識を失って倒れた。
太陽は慌てて瑠奈を支えると、そのまま抱きかかえ、保健室へ連れて行った。
保健室のベッドに寝かせると、看護師に「外で待ってて」と言われ、もう一度呼ばれるまで外で待ち続けた。
同じ学科の数人が、太陽と瑠奈の荷物を持って来てくれた。
太陽は様子を聞かれたものの、わからないと答えるしかなかった。
どれくらい待ったのかわからなくなった頃、ドアの近くで「お世話になりました」という声がして、瑠奈が保健室から出て来た。
「瑠奈、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。寝不足と貧血みたい」
「もう帰ろう。家まで送って行くから」
「送らなくていい。タクシーで帰るから。もう呼んでもらったし」
「あ……じゃあ、正門まで荷物持つよ」
「ありがとう」
瑠奈は『大丈夫』と言ったけれど、とてもそんな風には見えず、太陽は心配になった。
それが顔に現れていたのか、瑠奈が笑った。
「心配しすぎ」
「でもまだ顔色が悪いって言うか、白いから」
「日に焼けてないだけだよ」
「何か出来ることがあったら言って」
「……ひとつお願いがあるかも」
「何?」
「試験終わったら、海遊水族館に行きたい」
「いいよ」
「約束」
「いつにしようか?」
「8月7日がいい」
「どこで待ち合わせする?」
「水族館の前のオブジェがあるとこ」
「うん」
「そこで2時に」
「わかった」
「楽しみ」
「その前に試験あるけど」
「それ今言わないで。せっかく楽しい気分になってるんだから」
正門まで行くと、タクシーが既に待っていたので、瑠奈が乗り込むと、太陽は瑠奈のカバンを隣に置いた。
「じゃあまた明日」
「うん、明日ね」
けれども瑠奈は試験当日まで学校に来なかった。
電話をしても、やはりスマホの電源は入っておらず、メッセージを送っても未読のままだった。
試験の日、体調を心配していたと太陽が言うと、瑠奈は「朝から暑くて、学校来るのがめんどうだっただけ」と言って笑った。
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