♯6 飾らない愛情

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♯6 飾らない愛情

「時に、お嬢。その腕……、痛めてんのか?」  不意に言われてタモちゃんは。 「えっ?」  ドキリとして言葉を詰まらせた。 「このごろ飯のとき、食いずらそうにしてたからよ」 「ジュテームったら、よく見てるわね! あたしのことが好きなんじゃないのぉ?」  タモちゃんがおどけて見せたが。  ジュテームは少し微笑んだのち、すぐに表情を曇らせて。 「痛むのか?」  憂いの瞳を見せてきた。 「ぜんぜん平気! そのうち治る!」 「なんかあったらすぐに言えよ。力になってやるからよ」  ジュテームが告白するきっかけを作ってくれたのに。  ――寿命が減るって言ったら、みんなあたしをかばって戦えなくなる。だから、あたしが黙ってればいいんだ。  タモちゃんはみんなを心配させたくないからと、喉まで出かかっていた苦悩を言わなかった。 「やだなあ、心配しすぎ! まるであたしの保護者みたい!」 「みたい、じゃなくて、保護者だっつーの」 「でも、そう言ってくれると心強いな。気に掛けてくれて……、ありがと」  タモちゃんはジュテームの心遣いが嬉しくって。  涙がこぼれ落ちそうになるのを堪えていると。 「家族ってのはそういうもんだろ」  ジュテームの飾らない愛情に心が打たれて。 「持ったこともないくせに」  タモちゃんは手の甲を目に押し当てた。  9月に入っても、まだまだ夏の日差しが強く照りつけている、そんなウーグ海のプライベートな砂浜で。  黄色い声を上げてビーチボールを打ち上げるのは。  リボンがデザインされた、セパレート水着に身を包むタモちゃんとエターニャだ。  タモちゃんがバニラ色を基調にしていて。  エターニャは赤いストロベリー。  そして彼女たちの打ち損じたボールを拾い合うのが。  フリルのワンピース水着を着ている、デッドリィと鈴鹿のふたりで。  カラーはそれぞれパインとキウイだ。  ボールがいつ自分のところに落ちてくるかと、少しおどおどしている半の水着は、ブルーベリーのビスチェタイプに、レースが取り合わされている。  ボールを追いかけ回している眼鏡っ娘のクライネは、体のサイズが大粒な巨峰(ぶどう)くらいしかないために、ボールをつかめなくてつまらなそうに唇を尖らせている。  小さいながらも水着はカラーがグレープの紐ビキニをちゃんと着ていて、女子の中でも一番大胆なものをチョイスしている。 「みんな、いいなあ! いいなあ! クライネも遊びたいーっ!」  クライネがバッテン印に飛び回る。 「ボール遊びじゃクライネは参加できないかぁ」  タモちゃんが提案を呼びかけるが。 「でもクライネさんが参加できる遊びって?」  半は思いつけずに首をかしげる。 「しりとり……とか?」  鈴鹿が提案するも。 「海に来てまでしりとりなんて、つまんないーっ!」  クライネはご立腹だ。 「体を大きくすれば問題ない!」  エターニャの自信あふれる発言に。 「エターニャさん、そんな魔法知ってるのっ?」  デッドリィが嬉々として食いつくが。 「もちろんっ、知らない!」  エターニャが自慢げに頭を振るものだから。  一同、その場でコケかけた。
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