♯15 今日はありがとう。そして

1/1
前へ
/205ページ
次へ

♯15 今日はありがとう。そして

「海に入って体を洗ったらさ、今度はどっちの手持ち花火が長持ちするか勝負しないっ?」  ロナが目をキラキラさせて言ってくるので。 「ねえ、あんたもしかして、あたしたちと普通に遊びたいだけじゃないの?」  タモちゃんが追及すると。 「ぎくっ、な、なにをいっている!」  ロナは分かりやすく動揺し出した。 「仲良くしたいのなら、そういえば遊んであげるのに。ねえ?」  デッドリィがそう問いかけると。  タモちゃんも、エターニャも、鈴鹿も、半も、クライネも、みんな親密に頷いた。 「馬鹿なことをいうな! 私はエディモウィッチ様お抱えのマジカリストだぞ! もしそうだとしても! 立場上言えるわけないだろ! それがどんなに辛いことか! まあ最近、エディモウィッチ様の行動に、少しついて行けない感は否めないけどさあ……」 「なんか愚痴りだしたぞ……」  タモちゃんたちが残念そうな目でロナを見てやると。  ロナは涙目になって。 「花火、するのか、しないのか! この日のために、たくさん買ってきたんだからな!」  花火セットを腕いっぱいに見せつけた。 「わかった、わかった! やるやる! とりあえず、体を洗わせて」 「わたしも洗うー!」  タモちゃんやロナたちが波打ち際で体を洗いながら、水のかけ合いっこをしたのちに。 「みんなに行き渡ったか? せーので火をつけるぞ! せーの!」  手持ち花火でたくさんはしゃぎ回って。 「次はバーベキューの早食い競争だ! デザートはかき氷が待ってるぞーっ!」 「おおーーっ!」  心行くまで遊び回った果てに。  時は過ぎ――。 「ジュテームさんが夕ご飯できたって!」 「もうそんな時間なの? 帰らなきゃ!」 「そろそろ解散しよっか」 「あーっ、めちゃくちゃあそんだーーっ!」 「また一緒に遊ぼうな!」 「この場所は絶対に誰にも話さないから!」 「なんたって、あたしらはもうズッ友だ!」 「じゃあねーーーっ!」  楽しいひとときを思う存分わかち合って。  連絡先まで交換してしまったタモちゃんたちであった。  家に戻って夕食を取ったあと。  真っ赤に染まった大空が夜のとばりに包まれて。  夏の終わりの太陽が地中海に沈んでゆく――。  そんな一番星が輝くころ。  タモちゃんはひとり、砂浜に座って。  海風に髪をなびかせ。  消えてゆく夕焼け空を眺めていた。  スマホの通知音が鳴って。 「あ! ロナたちだ! なんだろう!」  ウキウキとチャットアプリを開いてみると。  涙の絵文字とスタンプで。  いっぱいになっていて……。 『タモちゃん、ごめん』 『あたしら、やっぱり親友にはなれないや』 『あした、フィンランド(ファンロンデ)ヘルシンキ(フリサンカ)を襲撃することになったんだ』 『命をかけた決闘だよ。ぜったい来てね』 『嫌なことぜんぶ忘れて、楽しかった』 『今日は遊んでくれてありがとう』 『そして、さようなら』  それからまもなく。  ロナたちがグループチャットを退会した。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加