♯17 命をかけた因果

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♯17 命をかけた因果

「ロナ! おまえは仲間が助かるなら、65万人の命と引き換えになっても構わないのか!」  エターニャの泣き出しそうな訴えには。  少し間を置いて。 「そうだよ……。あいつらとは苦しいときも共に助け合って生きてきた。言わば肉親と同じなんだ。他人のために家族を見捨てるやつがどこにいる! 戦争している兵士(やつら)の理由って、そういうことだろ!」  鋭く自説を言い立てた。  自分の信念に揺るぎはないと、奥歯をグッと噛み締める。 「……わかった。ロナ、戦ってあげる!」 「タモちゃん! ダメよ!」 「デッドリィ、ロナは犠牲を最小限になるように取り計らってくれたんだ。なら、そうなるようにする!」  タモちゃんがロナに決意の目を向けると。 「タモちゃん、決闘のルールはこうだよ。お互い同時に最高呪文を唱え始めて、ぶつけ合う! 生き残ってた方が勝ち! それだけ!」  ロナも腹が据わった眼で返した。 「ドシンプルでいいじゃない。ロナらしくて気に入ったわ!」  タモちゃんは負ける気はしなかった。  命を削りさえすれば、いくらでもリミッターを外すことができる感覚があるからだ。 「お嬢! 危険すぎる!」 「ジュテーム、みんなとそこであたしの雄姿を見届けていて」 「それじゃ、いくよ!」 「来いっ! 妖力フリーイング!」  タモちゃんはフィンランド(ファンロンデ)湾に面するバルト(ボリテ)海に念を撃ち込んだ。  髪の毛が深海最深部(フルデプス)に染め上がっていく――。  ロナとタモちゃんは同時に魔法と妖術を唱え始める。 「ヅァエ・ヅロキオ、ピルシトマ・ロ・ティオ・フェリツォ!」 「藻屑(もくず)となって(うみ)墓場(はかば)()(しず)め!」 「ラヒルッツァ・ティット・ロ・モザオ!」 「疾風怒濤(しっぷうどとう)海神(わたつみ)水天一碧(すいてんいっぺき)大圧殺(だいあっさつ)!」  ボリテ海が盛り上がり。  天まで届く巨大な水柱が二本、渦を巻きながら立ち上がった。  それらは筋骨隆々の両腕へと変化して。  手の腹を開いたのちに。  ロナを諸手(もろて)で叩き潰した!  しかしその直前には!  ロナが水鏡のベールを張り巡らせていた。  海の(かいな)が水鏡のシールドに跳ね返され。  たちまち反転、タモちゃんに襲いかかった!  ――反射魔法っ!  みなが目を見張るなか。  タモちゃんは体の自由が利かなくて、動けなくなっていた。  ――命を削ればいくらでも唱えられるとか、創造主(あいつ)がそんな都合のいいことを許すわけがなかったんだ!  タモちゃんは死を覚悟した。  海神の諸手突きをもろにくらって――。  戦意喪失になったところへ。  ロナは前後に刃が備わった、双刃の短い槍を空間から取り出した。  刃には毒々しい魔法(エンチャント)が取り巻いている。
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