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♯8 じっと時を待つ!
菜乃花はすでに勝ったような顔つきをして、窓際の列の、一番後ろの席に足を上げて反っくり返った。
菜乃葉はタモちゃんにお辞儀をひとつしてから、菜乃花の右の席にそっと着座する。
「タモちゃん、ホントにやる気なの?」
「あんなの相手にしなくていいのに!」
左の席のエターニャと、後ろの席のデッドリィが身を寄せてきた。
「アレになるのが丁度そのくらいだから」
「アレ……?」
「がおー!」
タモちゃんが両腕を振り上げてみせる。
「ああ、そっか! 定時的になるんだっけ!」
「屍人形もどきになれば妖術が無限に使えるって言ってたわね! ふふっ! あの子、圧倒的な力の差を見せつけられて、泣いちゃうわよ、きっと!」
――しかも命を削らなくて済む。
エターニャとデッドリィとタモちゃんも、済ました顔つきになった。
「あー楽しみだわー! 早く放課後にならないかしら!」
「菜乃花さん、授業を始めまぁすよ。お行儀良く座って! みなさん、タブレットを出したら、それぞれの学年の、英語の教科書アプリを開いてください、うほ!」
そして時は過ぎ。
時刻は放課後の午後四時だ。
場所は第七グラウンド。
特別クラスの生徒が決闘をするという話がどこからか漏れて。
いや、菜乃花が言いふらしていたのかもしれないが。
グラウンドの周りには、野次馬の生徒がたくさん集まって人だかりができている。
柵や木の枝に登っている者。
花見さながら敷物を敷いてご飯を食べている者。
肩車をして双眼鏡で覗いている者。
屋台を出して商売を始めている者など。
ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
「タモちゃん、負けるなーっ!」
デッドリィたちが見守るなか。
グラウンドの中央にはタモちゃんと菜乃花が適度な距離を開けて対峙している。
「ギャラリーが想像以上にうっとうしいわね。気持ちが萎えちゃう前に、さっさと始めるわよ!」
菜乃花が向こうっ気を突っかけるが。
「まだ4時7分になってない」
タモちゃんは至って冷静だ。
タモちゃんと菜乃花のあいだに。
風がひゅう~と吹き抜けて。
菜乃花が気障りをつのらせていく。
「顔も合わせてるんだし、数分くらいいいでしょ!」
「まだ4時7分になってない」
タモちゃんは決闘に応じない。
屍人形もどきになる気配が来るまで、受け流していく寸法だ。
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