♯17 出生の秘密

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♯17 出生の秘密

 木組みで平屋造りの、かわいらしい人家の前で、家の中の様子を温かく見守る女性たちの井戸端会議から、場面は始まってゆく――。 「パパも、ママも、魔法科学者の権威なのよね!」 「そのふたりのお子さんでしょ?」 「女の子ですって!」 「きっと才能のある子供が産まれてくるに違いないわ!」 「ふたりとも、おめでとーーっ!」  近所でも評判の若夫婦に、新しい命が誕生しようとしていた。  観葉植物や、お花がたくさん飾られた、陽光差し込むリビングで、ふたりは仲良くソファーに寄り添いあっては。 「エターニャが世界で1番だいすきだよ~!」 「元気で産まれてきてね~!」  大きくなったお腹に、毎日たくさんの愛情を語りかける。  ある日のお昼下がりには。 「あなた、来て! 魔法によって、この子、動き方を変えるのよ!」 「えっ? まさか!」 「見てて!」  妻が自分のお腹に夫の頬と手を当てさせてから。 「キョンデリ・ヒルアミ!」  小さな炎を唱えてみせたら! 「動いた!」 「その動き方、覚えてて! キョンデリ・ヒルアミ!」  妻が続けて小さな炎を出してみせると。 「うん、おんなじ反応だ!」  夫は目を丸くした! 「シターミ!」  今度は妻が蒸気の魔法を唱えてみせると。 「あ! 動き方が変わった!」 「ねっ!」  みたび蒸気の魔法を唱えても、お腹の中で同じ動きが繰り返されるものだから。 「まるで魔法の種類がわかってるみたいだね! これはすごい子が産まれてくるぞ!」 「楽しみだわ!」  若夫婦は期待に胸を膨らませて、エターニャが産まれてくる日を、指折り数えて日々を送っているのでした。  そして、運命の日の午後――。  夫は妻がお腹を押さえて、苦痛に顔をゆがませていることに気がついた。 「あなたっ……!」 「たいへんだっ!」  出産が始まりそうな気配を感じた夫は、立っていられなくなった妻をベッドへ急ぎ連れて行ったのち。 「すぐに助産婦さんを連れてくるっ!」  家を飛び出し、車を走らせた!  ついにエターニャが産声を上げる日がやってきたのだ。  近所の知り合いも騒ぎに気がついて、家の前で心配そうに取り巻くなか。  大急ぎで夫が助産師を連れてきた。 「助産婦さん、こっちですっ!」 「産気づいてどのくらい?」 「10分です!」  寝室で歯を食いしばっている妻の元へ駆けつけ。  助産師は妻の状態を調べるや否や。 「ありったけのタオルと産湯を用意して! はやくっ」 「は、はいーっ!」  差し迫った事態に夫は腹をくくると。  事前に予習していた行動を、実行に移したのだった。  いよいよエターニャが産まれそうになったとき。  ヤツが現れる。  人には見えざる姿の、その悪しき意識の塊は。  顔貌がわからなくとも、タモちゃんたちには直感で誰だかわかった。  ――エディモウィッチだ!  ヤツは産道半ばにいたエターニャに憑依すると。  産声を上げると同時に。 「カリ・ウビラヲン!」  最も簡潔にして、凶悪な。  命を奪う魔法を唱えたのだ! 「エターニャーーーッ……!」 「エターニャちゃーーーんっ……!」  ――お父さん! お母さん! お父さぁんーーっ! お母さぁんーーっ!  エターニャの両親は突如として命脈を絶ち切られ。  唯一生き残った助産婦も、エディモウィッチに心を奪われてしまって。 「エターニャは悪魔の子。両親を殺した、災厄の子っ……!」  近所の人々にそう告げて、悶死した。 「災いが起る前触れだーーーっ!」  その場が悲鳴で騒然となったとき。  エディモウィッチは、年老いた魔女に変身して現れると。 「通してくだされ! 我は悪魔払いをしている者じゃ!」  家のなかからエターニャを連れ出して、みんなに掲げて見せたのち。 「親殺しの忌み嫌われし禍根の子よ! 我が引き取り、責任を持って厄払いをするとここに約束しよう! みなの者、安心するが良い!」  自分の所有物だと宣言した。  ――殺したのは、そいつなんだーーっ!  ――みんな騙されちゃダメーーっ! 「おお、悪魔払いさまが救済してくださるのか!」 「よかったわぁ……!」  安堵の歓声が沸き上がるなかを。  エディモウィッチは誰からも引き止められることなく、エターニャを連れ去っていったのだった。  ――エターニャは親を殺しちゃいなかった!  ――手にかけたのは、エディモウィッチだったんだーーーっ!
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