22人が本棚に入れています
本棚に追加
♯17 出生の秘密
木組みで平屋造りの、かわいらしい人家の前で、家の中の様子を温かく見守る女性たちの井戸端会議から、場面は始まってゆく――。
「パパも、ママも、魔法科学者の権威なのよね!」
「そのふたりのお子さんでしょ?」
「女の子ですって!」
「きっと才能のある子供が産まれてくるに違いないわ!」
「ふたりとも、おめでとーーっ!」
近所でも評判の若夫婦に、新しい命が誕生しようとしていた。
観葉植物や、お花がたくさん飾られた、陽光差し込むリビングで、ふたりは仲良くソファーに寄り添いあっては。
「エターニャが世界で1番だいすきだよ~!」
「元気で産まれてきてね~!」
大きくなったお腹に、毎日たくさんの愛情を語りかける。
ある日のお昼下がりには。
「あなた、来て! 魔法によって、この子、動き方を変えるのよ!」
「えっ? まさか!」
「見てて!」
妻が自分のお腹に夫の頬と手を当てさせてから。
「キョンデリ・ヒルアミ!」
小さな炎を唱えてみせたら!
「動いた!」
「その動き方、覚えてて! キョンデリ・ヒルアミ!」
妻が続けて小さな炎を出してみせると。
「うん、おんなじ反応だ!」
夫は目を丸くした!
「シターミ!」
今度は妻が蒸気の魔法を唱えてみせると。
「あ! 動き方が変わった!」
「ねっ!」
みたび蒸気の魔法を唱えても、お腹の中で同じ動きが繰り返されるものだから。
「まるで魔法の種類がわかってるみたいだね! これはすごい子が産まれてくるぞ!」
「楽しみだわ!」
若夫婦は期待に胸を膨らませて、エターニャが産まれてくる日を、指折り数えて日々を送っているのでした。
そして、運命の日の午後――。
夫は妻がお腹を押さえて、苦痛に顔をゆがませていることに気がついた。
「あなたっ……!」
「たいへんだっ!」
出産が始まりそうな気配を感じた夫は、立っていられなくなった妻をベッドへ急ぎ連れて行ったのち。
「すぐに助産婦さんを連れてくるっ!」
家を飛び出し、車を走らせた!
ついにエターニャが産声を上げる日がやってきたのだ。
近所の知り合いも騒ぎに気がついて、家の前で心配そうに取り巻くなか。
大急ぎで夫が助産師を連れてきた。
「助産婦さん、こっちですっ!」
「産気づいてどのくらい?」
「10分です!」
寝室で歯を食いしばっている妻の元へ駆けつけ。
助産師は妻の状態を調べるや否や。
「ありったけのタオルと産湯を用意して! はやくっ」
「は、はいーっ!」
差し迫った事態に夫は腹をくくると。
事前に予習していた行動を、実行に移したのだった。
いよいよエターニャが産まれそうになったとき。
ヤツが現れる。
人には見えざる姿の、その悪しき意識の塊は。
顔貌がわからなくとも、タモちゃんたちには直感で誰だかわかった。
――エディモウィッチだ!
ヤツは産道半ばにいたエターニャに憑依すると。
産声を上げると同時に。
「カリ・ウビラヲン!」
最も簡潔にして、凶悪な。
命を奪う魔法を唱えたのだ!
「エターニャーーーッ……!」
「エターニャちゃーーーんっ……!」
――お父さん! お母さん! お父さぁんーーっ! お母さぁんーーっ!
エターニャの両親は突如として命脈を絶ち切られ。
唯一生き残った助産婦も、エディモウィッチに心を奪われてしまって。
「エターニャは悪魔の子。両親を殺した、災厄の子っ……!」
近所の人々にそう告げて、悶死した。
「災いが起る前触れだーーーっ!」
その場が悲鳴で騒然となったとき。
エディモウィッチは、年老いた魔女に変身して現れると。
「通してくだされ! 我は悪魔払いをしている者じゃ!」
家のなかからエターニャを連れ出して、みんなに掲げて見せたのち。
「親殺しの忌み嫌われし禍根の子よ! 我が引き取り、責任を持って厄払いをするとここに約束しよう! みなの者、安心するが良い!」
自分の所有物だと宣言した。
――殺したのは、そいつなんだーーっ!
――みんな騙されちゃダメーーっ!
「おお、悪魔払いさまが救済してくださるのか!」
「よかったわぁ……!」
安堵の歓声が沸き上がるなかを。
エディモウィッチは誰からも引き止められることなく、エターニャを連れ去っていったのだった。
――エターニャは親を殺しちゃいなかった!
――手にかけたのは、エディモウィッチだったんだーーーっ!
最初のコメントを投稿しよう!