22人が本棚に入れています
本棚に追加
♯21 謀られた命拾い・シーン1
夢幻はまたもや、とある真実をタモちゃんたちに覗かせる――。
薄いトタンで作られた質素な家は、ところどころに穴が開いている。
家の中は窓もなく。
とても狭くて蒸し暑い。
そして昼でも暗かった。
ここは身寄りのない母と娘が夜をやり過ごすためだけの寝床。
着ている服はいつもおなじTシャツで。
靴は履いたこともない。
「ねえ、お母さん。わたし、ここ、嫌い。他に住むところないの?」
「ごめんね。この国じゃ難民はスラム以外に行くところがないの。祖国を丸ごと焼き払われなければ、こんなことにならなかったのだけど……」
「だれがやったの?」
「エドー……、いいえ、ディマモとか言ったかしら。よく知らないわ」
「わたし、ゴミ捨て場からお金になりそうなものを拾ってくる。早くこんなとこ、抜けだそう!」
「いつも悪いわね。足が良くなったら、お母さんも一緒に探すからね」
「うん! いってきます!」
娘の仕事はゴミ拾い。
くず鉄なんかを拾っては、リサイクル業者に持って行って、わずかな金をもらう。
日が暮れるまで探し回って、稼ぎは1日1ドル未満だ。
1ドル稼いで食事が1日1回あれば、まだ良い方で。
不衛生な水だけで過ごす日もざらにある。
娘が向かったゴミ捨て場は、もちろん無分別で。
生ゴミから、粗大ゴミまで、何でも捨ててある。
そこかしこが、なにかしらくすぶって煙が出ていて。
汚い水たまりがあって。
ひどい悪臭が漂っている。
それが見渡す限りの地平線まで広がっている。
そんな広大な場所でも。
「てめえ、ここは俺たちの縄張りだって言ってんだろ! くんなよ!」
「早く消えろ! 痛い目に遭わせるぞ!」
学校に行っていれば小学生くらいだろうか。
娘と同年くらいの子供たちに、脅されることもしばしばだ。
それでもたまには。
「あ! アーマちゃん! 久しぶり!」
「ルシアちゃん! しばらく見ないから心配してたよ!」
「うん、丘で探してたらバレちゃってさ。ちょっと隠れてたの」
「最近あいつらが縄張りだって言ってるところか」
「アーマちゃんも気をつけた方がいいよ。容赦ないから」
「うん。でも無事で良かった」
「ねえ、見て見て。さっき拾ったの」
ルシアが雑誌を開いて見せて。
「綺麗な服でしょ!」
サファイアブルーの夜会服を指してみせた。
「なにか食べてるね! 机にお皿がいっぱい!」
「パーティーよ、きっと!」
「これがパーティーかあ!」
「あたし、大人になったらアイドルになって、絶対パーティやってやるんだ!」
最初のコメントを投稿しよう!