★第2章★ ♯1 忍び寄る喜劇(ひげき)

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★第2章★ ♯1 忍び寄る喜劇(ひげき)

 科学の代わりに魔法技術が進化を遂げた、地球とそっくりなもうひとつの地球があった。  太陽を挟んで常に向こう側に隠れているその双子星では。  エディモウィッチという悪の魔法使い(マジカリスト)が、世界を相手に魔法戦争を吹っかけている――。  そんな戦時下の異世界へ、1000年前に封印されていた大妖怪、九尾の妖狐の玉藻前(たまものまえ)のタモちゃんが、救世主として送り込まれたのだが。  転生した彼女の器は身長100センチにも満たない幼すぎる肉体で。  妖術もろくに使えないなか、仲間と共に力を合わせて、マジカリストたちと死闘を繰り広げる日々を送っていた。  そんなこんなでタモちゃんが抵抗軍(レジスタンス)の仲間と寝食を共にしているのが。  とある国の、とある町にある。  お酒に合うスイーツを出す、カクテルバーのような様式の、大人のケーキ屋さんだった。  店舗の奥は居住スペースになっていて。  ミモザの朝露が日差しに輝くころ。  その子供部屋に忍び寄るのは。  パンケーキの匂いを振りまきながら、フリフリのエプロンを身につけたバーテンダー姿の好漢だ。  ノックもなしにドアを開け。  子狐たちのぬいぐるみのわきを通って。  天蓋付きベッドのレースを掻き上げる。  そこに眠っているのは、銀髪ロングの姫カットをしたちびっ子だ。  男の赤く潤んだ唇が。 「さあ、起きて。朝ですよ!」  と、タモちゃんの耳元でささやきかけた。  聞き知った声なのに、聞き慣れないトーンの声にタモちゃんが。 「あなた、だれーーっ?」  飛び起きた。 「嫌だなあ。僕ですよ。ジュテームですぅ!」 「はあ?」  ジュテームというのは平安時代の極悪妖怪で、鬼族の暴れ総大将・酒呑童子(しゅてんどうじ)の生まれ変わり……のはず、なのだが。  そこにいるのは傍若無人とは正反対の、屈託ない笑顔でタモちゃんを見守っているジュテーム似の優男で。 「さあ、起、き、て!」  と、鈴虫のような声色でウインクをする。 「ひひ~~~~っ」  全身に虫酸が走って。  タモちゃんはベッドを飛び出した。  取り外していたキツネ耳のヘッドバンドを装着し。  廊下を猛ダッシュで走り抜け。  リビングの三人掛けソファーに座る鈴鹿に駆け寄り、しがみつく。
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