♯4 火を吹け! タモちゃん!!

1/1
前へ
/198ページ
次へ

♯4 火を吹け! タモちゃん!!

 タモちゃんが火に包まれようとしたそのとき。  松明が宙にきゅっと縫いつけられた。  まるで時が止まったように。  その空間へ突如として現れたのは。  黒のタイツに、すみれ色のセーラー服を着た、髪をお下げ結びにしている大和撫子と。  白のワイシャツに黒い袖なしの短い胴着(ジレ)、蝶ネクタイをしたバーテンダー風の好漢だ。 「解きますよ!」 「いつでもいいぜ!」  セーラー服の少女が握っていた拳をすっと開くと。  宙に縫いつけられていた松明がボボボと解き放たれた。  それと同時に。  バーテンダーの格好をした男から。 「うおらああああっ!」  気合いと共に衝撃波が放たれると。  数多くの松明が一本残らず吹き飛ばされていく。 「なあ、鈴鹿(すずか)。今日はちぃと天気が良すぎやしねえかなあ?」 「そうですか? それでは狐の嫁入りと参りましょう」  セーラー服の少女は手を合わせて。  青空を仰ぎ見て。 「篠突(しのつ)(あめ)よ、邪悪(じゃあく)猛火(もうか)()()(たま)え! 甚雨招来(じんうしょうらい)!」  たちまちに鉛色の雲が立ちこめたかと思えば。  天の底が抜けたかのような、豪雨が大地を打ちつけた。  篝火ゴーレムたちの魔法の炎が、神通力の雨によって鎮火されていく。  切ったように雨が止み。  雲間から指す陽光の、まばゆいスポットライトの中で。  バーテンダーの男はおもむろに、松明をひとつ拾い上げ。  頭上高く振り上げた。 「これぞ豪快豪傑(ごうかいごうけつ)、どいつもこいつも(くだ)()れーーーっ!」  衝撃波が松明の形のまま巨大化し。  空を覆うほどに至大と化した松明が振り下ろされると。  消し炭となったゴーレムたちは皆、ひしゃげるように粉砕された。 「おい、嬢ちゃん、終わったぜ」 「……、目を覚ましませんね」  ふたりに話しかけられてもタモちゃんは。 「スャァ……」  目覚めない。 「しょうがねぇ。気つけ薬を飲ませるか」  バーテンダーの男が懐から小さな酒瓶を取り出して。  親指で蓋をきゅっと回し開けると。  タモちゃんの口に含ませた。  すると――。 「ぶぶぶあああーーーーーっ!」  謎の液体を噴き出しながら、タモちゃんが飛び起きた。 「あたし口から火吹いたんですけどーーーっ!」 「よう! おはようさん!」 「貴方がタモちゃんですよね!」  苦み走った男の顔と、愛らしい顔立ちの女子学徒が微笑んでいる。 「なぜあたしの呼び名を知っている!」
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加