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♯4 火を吹け! タモちゃん!!
タモちゃんが火に包まれようとしたそのとき。
松明が宙にきゅっと縫いつけられた。
まるで時が止まったように。
その空間へ突如として現れたのは。
黒のタイツに、すみれ色のセーラー服を着た、髪をお下げ結びにしている大和撫子と。
白のワイシャツに黒い袖なしの短い胴着、蝶ネクタイをしたバーテンダー風の好漢だ。
「解きますよ!」
「いつでもいいぜ!」
セーラー服の少女が握っていた拳をすっと開くと。
宙に縫いつけられていた松明がボボボと解き放たれた。
それと同時に。
バーテンダーの格好をした男から。
「うおらああああっ!」
気合いと共に衝撃波が放たれると。
数多くの松明が一本残らず吹き飛ばされていく。
「なあ、鈴鹿。今日はちぃと天気が良すぎやしねえかなあ?」
「そうですか? それでは狐の嫁入りと参りましょう」
セーラー服の少女は手を合わせて。
青空を仰ぎ見て。
「篠突く雨よ、邪悪な猛火を消し去り給え! 甚雨招来!」
たちまちに鉛色の雲が立ちこめたかと思えば。
天の底が抜けたかのような、豪雨が大地を打ちつけた。
篝火ゴーレムたちの魔法の炎が、神通力の雨によって鎮火されていく。
切ったように雨が止み。
雲間から指す陽光の、まばゆいスポットライトの中で。
バーテンダーの男はおもむろに、松明をひとつ拾い上げ。
頭上高く振り上げた。
「これぞ豪快豪傑、どいつもこいつも砕け散れーーーっ!」
衝撃波が松明の形のまま巨大化し。
空を覆うほどに至大と化した松明が振り下ろされると。
消し炭となったゴーレムたちは皆、ひしゃげるように粉砕された。
「おい、嬢ちゃん、終わったぜ」
「……、目を覚ましませんね」
ふたりに話しかけられてもタモちゃんは。
「スャァ……」
目覚めない。
「しょうがねぇ。気つけ薬を飲ませるか」
バーテンダーの男が懐から小さな酒瓶を取り出して。
親指で蓋をきゅっと回し開けると。
タモちゃんの口に含ませた。
すると――。
「ぶぶぶあああーーーーーっ!」
謎の液体を噴き出しながら、タモちゃんが飛び起きた。
「あたし口から火吹いたんですけどーーーっ!」
「よう! おはようさん!」
「貴方がタモちゃんですよね!」
苦み走った男の顔と、愛らしい顔立ちの女子学徒が微笑んでいる。
「なぜあたしの呼び名を知っている!」
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