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♯5 キツネ幼女と平安の大妖怪たち
セーラー服の少女はしゃがんで、タモちゃんに手を差し伸べた。
「今朝方のことです。瑠璃色の人型が現れて、救世主かもしれないタモちゃんがこの場所に現れるから、とりあえず行ってくれないか?ってお告げがあったのです」
「とりあえずって、またぞんざいな扱いね!」
タモちゃんはその手を取って、起き上がる。
「絶世の美女と謳われし女が、こんな嬢ちゃんになってたとはなあ! がっはっは!」
腹を抱えるバーテンダーの男に、タモちゃんはキッと睨みつけ。
「好きでこんな体になったんじゃないわよ! あんたたちこそ誰なのよ!」
その鋭い視線を和ぐように、セーラー服の少女がお下げを揺らして、タモちゃんの視界にぴょこんと入った。
「これは失礼。ボクは大竹、大竹鈴鹿です」
「おおたけ……? まさかあんた、鈴鹿山の大嶽丸か! 鬼神と云われたあんたが、こんなめんこい容姿になっちゃって! ぎゃははははっ! しかもそのセーラー服はなに? 昔から性別不詳だったけど、相当あの創造主に丸め込まれたのね。元気にしてたぁ?」
「お陰様で」
大竹鈴鹿が毒気のない顔でにっこり笑う。
「それじゃあ、そっちのおじさんは酒呑童子ね!」
「おじさんじゃねえ! また口から火ぃ吹かせっぞ、こらぁ!」
「ほんと久しぶりじゃないの! その見た目からして、鬼族の総大将ではなさそうね。バーテンダーでもやってるの?」
「こっちの世界じゃジュテームってのが通り名だ。今はしがないバーのマスターさ……と、言いたいところだが、理由あってケーキ屋をやっている」
「え、その顔でケーキ屋さん? ぎゃはははははーーっ」
「くそっ、笑うな! 売ってるのはアルコールに合う大人のケーキなんだよっ」
「へえ、酒呑童子が大人のケーキ屋さんかぁ。酒好きなのは創造主も完全に取り除けなかったわけだ。スレンダーなのはいいけれど、豪快豪傑なのは受け継いでいるんでしょうね!」
ジュテームはにやりとして周りを指さした。
「見てみな。嬢ちゃんが寝ている間に、これこの通りだ」
ゴーレムはおろか、家もろとも粉々に砕かれて、瓦礫の更地が広がっている。
「それはともかく、なんでお前は全裸なんだ?」
ジュテームに指摘され、タモちゃんは、はっとした。
眠りに落ちて、妖術で作った服が消えてしまっていたようだ。
「み、見たなーーーーーっ!」
タモちゃんが顔と髪を真っ赤にしてうずくまるが。
「なにを今さら言ってんだ。隅々まで見てやったが、1ミリたりとも欲情しねえわ」
その気など微塵もない、といったジュテームのひねくれ顔に、タモちゃんはカチンとキレて。
「はあ? このあたしの色気がわかんないわけ? 妖術であの世に送り返してやろうか、このぉ!」
「幼女術がなんだって?」
「幼女じゃないっ、妖術だーーーっ!」
まるで年の離れた兄妹ゲンカの勃発だ。
「まぁまぁ、ふたりとも、仲良しさんでいいですね! 積もる話は拠点でしましょ。さあ、帰りますよ!」
鈴鹿がふたりに手をあてがうと。
三人は空間のひずみへと掻き消えた。
その様子を木の陰から窺っていた人影。
その者も同時にどこかへ掻き消えた。
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