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♯8 太もも、きゃふーーーっ!
「この催しだけ手書きで付け加えられてありますけど、こんなの、予定にあったっけ……? なんか妙ですねー」
小首をひねっている鈴鹿に、タモちゃんとエターニャはしょぼんと太ももに抱きついて。
「それ、やっちゃダメなの?」
「えー、お肉、ほしぃなぁ……」
必殺の上目遣いのお目々パチパチ攻撃をしてみせると。
「かっ、きゃわわぁーーーっ! れんれんっ、ダメじゃないっ! みんなでお化けのお肉を強奪しに行っちゃいましょおおおぉっ! 太もも、きゃふーーーっ!」
「おおーーっ!」
鈴鹿は狂喜のガッツポーズを連発して。
タモちゃんとエターニャを引率し始めたのだった。
その様子を冷静に観察していたデッドリィが。
「ジュテーム、これでしょ? 鈴鹿ちゃんの言う弱点って」
理知的な顔付きでささやいてきたものだから。
ジュテームも真剣な顔付きになって。
「デッドリィはどう思う?」
と、意見を傾聴してみると。
デッドリィはしばし苦しみ考えたのちに。
「タモちゃんにあんな顔されたら、あたしなら受胎する……!」
「おまえもやっべえな……!」
ふたりは手をこまねいて黙りこくった。
「デッドリィちゃん、ジュテームさん、置いてきますよーーっ」
「おーい、待ってくれー」
「すぐいくぅーーーっ!」
皆でパンフレットに載っていた学校の片隅にある場所を訪れてみると。
そこは本校の生徒ですら誰も通らないような、校舎裏の風すさぶ物寂しい場所で。
「こんなところでやってるの……?」
「タモちゃん、あれじゃない?」
エターニャが校庭の隅に建っている大きな黒い三角テントを指さした。
入り口には黒ずくめの太っちょがひとり立っていて。
「わっ、忍者! ……か?」
「なんか、知ってるのと違うぞ……?」
タモちゃんとエターニャたちの目に映るのは。
両目以外をすべて覆った忍び装束を着した、ベタな忍者の格好をしているあんこ型の体型で。
「お前たちが来るのを待っていた」
などと言って来て。
「服が汚れぬよう、これを着るが良い。魔忍法・カエル児雷也の術!」
と、てるてる坊主のようなスタイルの、カエルの格好になる雨合羽を鈴鹿たちに手渡していく。
「忍者が汗かいてるーっ!」
「ほんとだーっ!」
「お嬢ちゃんたち、そこは触れてくれるな」
忍者がくれたにしては少々アニメチックで可愛らしいデザインのカエルさん雨合羽だが。
「はううっ、かあいいっ」
鈴鹿はそれがひと目見て気に入って。
「キツネ耳が邪魔で着にくいな」
着るのをためらっていたタモちゃんの頭から。
「ボクが預かっておきますね!」
「あ!」
ヘアバンドを外してしまった。
タモちゃんはキツネ耳のヘアバンドをつけていないと、身も心もお子ちゃまになってしまうのだけれど。
「なにかあったらすぐに渡します! だからタモちゃん、ぜひ着ましょうっ! 絶対似合いましゅって! はやく着て見しぇてっ。は、や、きゅっっ」
据わった目つきの赤ら顔で鈴鹿が迫り来るものだから。
「よ、酔ってるぅーっ?」
子供タモちゃんがおののくと。
鈴鹿はぽしゅんと普段に戻って。
「ボク、変でした?」
「あれれ」
タモちゃんはキョトンとなった。
「そんなことより、雨合羽を着ましょうねーっ」
鈴鹿が背中から雨合羽を羽織ってきたので。
タモちゃんはされるがままに、雨合羽をひっかぶったのだった。
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