★第4章★ ♯1 真夏の学校

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★第4章★ ♯1 真夏の学校

 朝七時の学び舎は静まりかえっていた。  窓の外からは動き出した町の喧騒とともに、運動部の朝練のかけ声が聞こえてくる。  日はすでに高くなっていて。  少しモワッとした空気が匂い立つなか。  空は入道雲の白と濃い青が支配していた。  今日は週初めの月曜日。  でも夏休みの真っ只中だ。  だから生徒は誰もいない。  手洗い場にある蛇口はちょうど五個。  みんな鏡の前でせっせと朝の身支度をする。  右端にいるのは、学校へ皆を連れてきた鈴鹿だ。 「今日もいいお天気ですね!」  夏休みだというのに、学生が学校に行くときは制服が本分と、律儀にセーラー服を着ている。  まとめた髪を髪飾りで下げ降ろすのがいつものスタイルだ。  鈴鹿の左手にいるのがデッドリィで。 「お日様たっぷり。紫外線もたっぷり。クリーム塗るの面倒くさーい」  ナイトウェアのままと思われる、黄色のTシャツに白の短パン姿。  自慢の脚はむくみ知らずで、まぶしく輝いている。  髪はお団子頭にするのだろう。  せっせと髪を整える。  デッドリィの左にいるのは、少し背が低い(ハン)だ。 「拙者みたいに肌を隠せばいいんです。これは見た目は暑そうですけど、汗は速乾するのに雨風や紫外線は通さない、伸縮も通気も抜群の魔法素材なんですよ! 着ているほうが涼しいのです!」  短距離走の選手が着ているような、黒いタンキニ風の服装で。  それ以外の首から下は、半分透けた黒い生地でピタリと覆われている。  現代に忍者がいたら、こんな格好かも知れない。  その左隣には身長100センチほどのエターニャがいて。  キャミソールのようなパジャマを着ながら、半開きの横目で半の腰をチラ見する。 「そこはかとなく、自分は体のラインに自信があると言いたいのだな……」 「言ってませんよぉっ」 「だってそんなピチピチの服、普通の女子が着られるか! これだからお色気担当ってやつは、もう!」 「だから、お色気担当じゃないんですってばぁ!」  トレードマークのツインテールの、綺麗なジグザグ分け目をつくるのに悪戦苦闘しているようだ。  そして左端にいるのが我らがタモちゃん。  背丈はエターニャと同じくらいで。  キツネ耳のヘアバンドに、キツネ柄のパジャマを着ている。 「半ってさ、ホントに純真だから、ついついからかいたくなっちゃうんだよねぇ。正にいじられ(あいされ)キャラの(かがみ)だよぉ!」  タモちゃんが褒めてあげると。 「えっ、そんなぁ! タモちゃんは拙者のことを見抜いてくれてたんですね! 照れちゃいますぅ!」  半がおだてに乗って、体をくねらせるものだから。 「うんうん! それで、どうやって男をたらし込んでるのっ?」  にやけた声でささやきかけたら。 「ぐぁはっ、たらし込んでぬぁああいっ」  半が真っ赤になって弁解するので。  そんなお決まりのパターンにタモちゃんは噴き出しながら。  少々とっちらかった姫カットの銀髪のまま。  ぐしゅぐしゅと歯を磨く。  目はだいぶ眠そうだ。
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