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♯14 最推しなんてシャレになんない!
中央に、ひときわ大きな黒い靄があって。
その下に小さな黒い靄が五つ、横に連なって浮揚している。
目を凝らすと。
小さな黒い靄の中に人影があって。
それは……、意識のないジュテームたちだ!
「救世主気取りなのは貴様だろう? こちらから会いに来てやったぞ」
黒い靄が男とも女とも聞こえる声色で威圧してきた。
「おまえ! エディモウィッチかっ! どうしてここがわかった!」
黒い靄は空間からショートケーキを取り出して。
「激安なのに、めっちゃ美味! 10個も買ってしまったわん!」
うっとりした声色でケーキをパクリ。
「まさかの、超お得意さまだーーーっ?」
タモちゃんが涙をほとばしらせるなか。
「私の甘い物センサーに引っかかったのが運の尽きよ!」
黒い靄はスマホを取り出して、タモちゃんのクッキング動画を再生して見せた。
「エディモウィッチの最推しなんてシャレになんない! あたしのファンなら靄でごまかしてないで、姿を現わせ!」
タモちゃんが指を突きつけるが。
「勘違いしないで。私はエディモウィッチさまの体の一部から生み出された傀儡よ。言わば分身ね。見て呉れが悪いというのなら、望みの容姿を聞いてあげるわ!」
見下したような、いけ好かない感じの抑揚で言い放つものだから。
「傀儡? エディモウィッチの操り人形ってこと? その靄から姿を変えられるのね?」
「そうよ。タモちゃんにだって、こんな偉大な容姿の敵なら、秒殺されてもいいわって思える理想があるでしょ? それを教えてくれればいいわ!」
タモちゃんは少し考えたのち。
ニヒッと噴き出すのを堪えて飲み込んで。
「そうねえ……、なら、おっちゃんになってみて!」
目をキラキラさせて手を合わせると。
「おっちゃんっ? そんなのに倒されるのが理想なのっ?」
黒い靄がいびつな形で前のめりになる。
「むっつりな感じでお願い!」
「変わっているな……。まあいい。それで服装は?」
「とりあえず適当で!」
「ふむ」
傀儡は黒い靄の形を変えて、中肉中背のメタボおやじに変化してみせた。
ステテコを穿いた、どこにでも実在していそうな、締まりの無い顔つきだ。
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