魅惑の色

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 東京に家庭電灯が普及したのは明治時代のことらしい。  戦後に雪国で生まれた彼は、高校卒業後、隣県に就職した。  週末、実家に帰ってみると、街灯の少なさで夜道が歩きにくかった。  月明りと懐中電灯でかろうじて歩いた。心細い限りである。  室内の照明も会社と比べると、かなり薄暗い感じがした。  だが薄暗さのおかげで、白色や金色が映えるらしい。  黒と白、黒と金の対比である。  黒板に白墨で書くのも白を映えさせる。  一方、白紙に墨で毛筆すると黒が主役になる。  最近、彼は空き地の草に注目している。  日差しを浴びる緑もさることながら、隣家の影に緑が深みを増す。  眺めているうちに 夜の とばりが降りて 黒く染めていく
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