日本戦隊ダイナマイツ

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 次にブラックが表れたのは三ヶ月後のことだった。テレビ局のヘリコプターが飛び、日本政府が地下に建設した避難場所に逃げる人々、ブラックがビルを破壊する様子を映し出す。  何もない空間からフワッと浮き上がる五体の影。 「出たな、ブラック!」  五人は輪になり手を重ね合わすと「死ぬ気になればなんでもできる!」そう気合いの雄叫びをあげて手を切った。  まずはブラックの動きを止めるため、青が足にすがりつく。 「捨てないでえーっ!」  しかし、今回のブラックは動きを止めようとはしない。なおさら活発に暴れ出した。 「どういうことだ?」  首を傾げる五人。すると円盤から声がした。 「研究者から解析調査報告が届いた。そのブラックは人間の嫉妬心が集まって巨大化したらしいぞ」 「嫉妬だと?」  輪になりヒソヒソと打倒作戦を話し合う五人。やがて結論が出ると、まず青が攻撃した。  彼女は両手を広げ、周囲のエネルギーを集めると、ブラックに向けて一気に放出した。 「共感ウェーブ!」  共感ウェーブは、嫉妬に対する深い理解と共感をもたらす波動攻撃だ。  ホストクラブ入店時、指名ホストが自分以外の女性とイチャイチャ。シャンパンコールでホスト全員からヨイショされてた時、どんなに嫉妬したか。そして一郎の妻への嫉妬。  彼女の共感攻撃を受けたブラックは、自分だけではないんだと思い、少し嫉妬の心が和らぎ大人しくなる。  次は黄色の攻撃、認識チェンジだ。光の輪がブラックの頭上に出現し、ブラックの心に働きかける。 「他人と自分を比較してはダメ。アナタはオンリーワン!」  黒い顔を上げ自己肯定感を高めるブラック。  次は桃色の真心ビームだ。愛と喜びをブラックに注ぎ込む。これによりブラックの嫉妬心は縮小し、他人の幸福を素直に喜んでもいいんじゃないか?という心が芽生えた。  赤は激しいポジティブダンスを踊りラップを披露。 「未来は明るいYO!ポジティブに行こうぜレッツゴーッ!」    肩でリズムをとり楽しい気持ちになるブラック。  一郎は、そんなブラックに友情フラッシュというとどめを刺した。  注がれた熱い友情によりブラックは消滅。二度目の戦闘も勝利した。  しかし、その後も次々とブラックは出現を繰り返すことになる。ブラックは人間の悪心がウィルスにより増大した怪獣。色んな種類がいた。 怒り。 不正や不公平と感じる状況に対する強い感情。 貪欲。 過度に物質的な欲望や富を求める感情。 傲慢。 他者を見下し優越性を過度に信じる感情。 憎悪。 他人に対する強い差別や偏見により生まれる感情。 怠惰。 やるべきことを先延ばしにし、努力を怠る感情。 独占欲。 他者と共有せず、すべてを自分のものにしたいという欲望。 嫌悪。 他者や特定の状況に対する強い嫌悪感。 復讐心。 自分に対する不正や不公平を受けたと感じ、報復を望む感情。 悲観。 物事を常に悪い方向に考える感情。 疑念。 他者や状況に対する不信感。 卑劣。 卑怯な手段を用いて他者を害することを厭わない感情。 偽善。 本心を隠して善行を行うふりをすること。  だが、こんな感情は大なり小なり人間なら誰だって持っている。これら複雑な感情、善と悪をごちゃ混ぜにしたのが人間という生き物だ。これではキリがない。  悪の根元はウイルス。これを根絶しなければならない。世界各国はウイルスの発生場所を特定するため躍起になった。戦争をしていた国同士は終戦し手を組むことになる。ブラックとの戦いに一生懸命で人間同士が争ってる場合ではないのだ。目標は一つ。世界は一丸となった。そして、とうとう悪の根源を見つけたのだ。  その生物は【悪魔ズォーダー】と言い、いつの間にやらネパールと中国の国境であるエベレスト山の頂上に城を築いていた。  悪の城へと向かう世界中のダイナマイツ達。各国に五人いるので凄い人数だ。しかもエベレストは8849メートルと世界一高く空気が薄いため、瞬間移動エネルギーが不足し、5364メートルのベースキャンプから登山しなければならなかった。 「ハアハア」  ダイナマイツスーツは特殊なため、デスゾーンでも酸素マスクや登山防寒着は不要。だが雪道登山は難儀を極め、頂上まで辿りつくもダイナマイツ達は酷く疲労した。  上空は大気が希薄のため円盤は飛べない。下のベースキャンプから指令が送られた。 「GoGO!ダイナマイツ!」  指令責任国はアメリカのようだ。ダイナマイツ達のリーダーもアメリカのレッドダイナマイツ。なぜかイギリスダイナマイツは不満気だ。リーダーのレッドは皆に呼びかけた。 「ミーもユー達もみんな絶望を知っている。絶望から這い上がった我々はストロング!皆で宿敵ズォーダーを倒すのだ。OK?」  一郎の横に立つ青がコソッと耳打ちする。 「私、英語苦手だから何言ってるのか分からない」  それは一郎も同じ。だがレッドの言いたいことが彼には理解できた。ようは「頑張ろう!」と言っているのだ。  まずはズォーダーの側近である四天魔達とのバトルだ。混み合いながらもダイナマイツ達は勝利。  最後に悪の首領、ズォーダーが現れた。皆は一斉に戦闘体制を構えるが、狭いし多人数のため、手がぶつかりバンザイしかできない状況。  ズォーダーの容姿だが、節分の鬼みたいな感じの黒バージョン。ズォーダーは不敵な笑みを浮かべ絶望の闇でダイナマイツ達を包んだ。闇の中、ダイナマイツ達は絶望してゆく。桃色が下を向いた。 「なんか生きて、ごめんなさい」  見渡せば、皆も下を向いている。明らかに戦意喪失だ。 (このままではいけない!)絶叫する一郎。 「みんな負けるな!自分自身に勝つんだ!」  その声が届いたのか、レッドを中心に皆は手を繋ぎあった。国は違えど心は一つ!一郎は再び絶叫した。 「ダイナマイツ、なめんなよおおーーっ!!」  ダイナマイツ達は次々に輝き、強烈な光を放つホワイト戦士に変化した。ズォーダーは身長十メートル、それと同じぐらいになった。 「こしゃくな!」  ズォーダーは闇の剣を振り上げホワイト戦士に振り下ろす。だが、ホワイト戦士は光の剣で攻撃を受け止めた。剣と剣がぶつかり合い火花を散らす。  闇と光。黒と白の戦いはエベレスト山を吹き飛ばす勢いに爆熱した。若干、ズォーダー有利な展開。ズォーダーの攻撃によりホワイト戦士の手から光の剣が弾かれてしまう。倒れたホワイト戦士にズォーダーは馬乗りになった。 「この一撃で最後だ!」  高く振り上がる闇の剣。 『パパ!』 『あなた!』  刹那、一郎の頭に妻と娘の笑顔が浮かぶ。こんなとこで死ねない!死んでたまるか! 「諦めるものか!」 絶叫する一郎。俺は家族を……。 「愛してるんだああーーっ!!」  それは他のダイナマイツも一緒である。みんなは同時に叫んだ。 アメリカ、イギリス「アイラブユーッ!」 中国「ウォーアイニーッ!!」 ロシア「ヤ ルブリュー テビャ!」 フランス「ジュ、テーム!」 スペイン「テ、キエロ!」 イタリア「ティアモ!」 アラブ語「アナ、アヒフカ!」  まだまだ、たくさんのダイナマイツ達が叫び、その力が巨大でキラキラ輝く発光体となりズォーダーを包んだ。発光体の名前は【愛】 「なっ、なんだこれは……」  その発光体がズォーダーの身体を足先から溶かしてゆく。 「ぬおおおおーーっ!!」  顔だけになったズォーダーは断末魔と共に闇の炎と化し消滅した。 「やった!勝ったぞ!!」  ホワイト戦士から個々のダイナマイツに戻り、とりあえず近くのダイナマイツと抱き合い歓喜する一同。表情は見えないが(みんな笑顔に違いない)と一郎は、頭にターバンを巻いているインドのダイナマイツと抱き合いながら思った。カレーの匂い。うん、本場のカレーはきっと美味い!  人間の心には必ず邪心がある。しかし人間にはそれを超える強き愛があるのも事実。善とは愛により生まれる尊い心。 「愛に勝る強き力など、この世には存在しないのだ」  日本の防衛省に帰ってきたダイナマイツ達に司令官は涙ながらにそう語った。  悪は滅び平和な世の中が訪れる。役目のなくなったダイナマイツ達は手術を受け、改造人間から普通の人間に戻ることになった。だが、この後に事件が起きる。医療関係者から暴露があったのだ。  ダイナマイツの心臓部分にはダイナマイトが仕込まれており、死ぬ直前、敵を巻き込んで爆発する仕組みになっていたことが判明した。  自殺志願者だから死んでもよい。そんな政府の考えが露見し、国民が激怒し大炎上。 「何が愛だ!命を粗末にしやがって!」  結果、総理大臣始め、政治家達は辞任し、国民選挙により新しい政府が産声をあげることになる。政党の名前は【博愛党】やはり政治もベースは愛なのだ。  一郎達は、ダイナマイツではなくなったが、その功績を讃えられ政治家になった。  一郎がダイナマイツと知った時の妻子の驚きは半端ではない。驚いた後、樹里は「パパ、カッコイイ!」とハシャいだが美奈子は涙した。 「無事に帰ってきてくれて良かった。 もう二度と危ないことはやめて。私はアナタが生きてるだけで良いの。それが幸せなのよ」 「美奈子」  一郎の美奈子への愛は深まるばかりだ。彼は妻を抱き寄せ、こう囁いた。 「平和になったし、二人目つくろっか」  これも立派な愛。  人生は波瀾万丈。未来は誰にも予想できない。なので再び悪の怪獣が出現するかも知れないが、きっと人間は、そのたびに悪と戦い滅ぼすだろう。悪を滅ぼす力、それは愛。愛は必ずアナタの中に存在し輝いているはずだから。  でも、疑問がある。その時がきたら、アナタはダイナマイツになりたいですか?  
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