黒い糸

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 黒い糸が、私に絡みついているらしい。  いつからだったのかは分からない。  気がついたらその黒い糸は私の体のあちこちにあると、みんなが言う。  絡みつかれている私だけが気付いていない。  いくら外そうとしても私には見えないので外すことができない。  友達にやってもらったけれど、ハサミでも切れないらしい。 『私はそれ、やりたくない。やっても仕方ないから』 『私はこれで良い。そんなの必要ないよ』  私がよく口にする言葉。  言うたびに糸は何重にもなって絡みついてくる。  変な先入観を持っていて、変な執着の仕方をしていると、私はみんなからよくそう言われている。  でも、周囲に“染まる”のは嫌。  私がそんな言葉を言うたび、そう思うたびに黒い糸は増えているという。  私は知らないうちに動けなくなっていく。  私からは見えず外れない、絡みつく糸はもう何重にもなったのだろう。 (もういいや、このままで……)  そう思ったところで私は倒れ、全く動けなくなった。  私の意識も途切れた。  黒は何にも染まらない。  白くまっさらな気持ちで自分にしっかり向き合わなければ、その糸は外れることはない。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加