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「小癪な……」
男の仮面が割れて地面に落ちる。顔には見覚えがあった。
「テオドール伯爵!? その顔……」
それはシャルロッテのかつての婚約者だった。そして、その顔には大きな火傷のあとがある。
「くっ、見たな……」
テオドールはとっさに顔を隠す。
「その火傷どうしたの……?」
シャルロッテとの婚約を破棄したあと、テオドールは公に姿を現さなかった。
婚約破棄という不名誉のためってことになってたけど、火傷が原因なのかもしれない。
確かにそんなに大きな火傷があれば、治療にも時間がかかるし、誰かに見せたくないのも分かる。でも、どうしてそんな火傷を?
父はそれを見て顔を真っ青にしている。でも……。
「やっぱあなただったのね! 振られたからってみっともない!」
シャルロッテだった。これまで恐怖で震えていたのに急に口を開いている。
「よくそんな顔で、あたしの前に出られたものね! 醜い! 本当に醜いわ! 今すぐ消えなさい!」
シャルロッテがとんでもないことを口走っていることは、事情の分からない私にもよく分かった。
「貴様が!! 貴様のせいで!!!」
テオドールが怒りの感情のままに怒号をぶつけると、シャルロッテは小さく悲鳴を上げて父の背まで下がった。
「シャルロッテ、やめて! テオドール公爵、何があったの?」
「ふん、愚かな姉は本当に何も知らぬのか。こやつらは真実を隠し、私をおとしめたのだ。舞踏館の火災のことは聞いておるだろう?」
「うん。火事になって全焼。奇跡的にケガ人はいないって聞いてるけど」
舞踏館は城の敷地内にあった大きなホールだ。
私はダンスがからっきしなので参加したことないけど、社交の場として王侯たちが利用していた。
「そうだな、ケガ人はいないとなっている」
「まさか……」
「あの日、火事に気づいた私は、婚約者であるシャルロッテを探していた。休憩のために奥に下がっていたのを知っていたからだ。だが火の手はすでに回っており、救出には成功したが、私は顔に火傷を負ったのだ……。花嫁を守った名誉の負傷。そう思えば慰みにもなったが、こいつらは醜さを理由に婚約を破棄したのだ!」
「そんな……」
信じられないけど、シャルロッテや母たちならやりかねなかった。
火傷という決して消えない証拠を突きつけられると信じるしかない。
「シャルロッテ、ホントなの?」
「…………。ええ、本当よ。見て分からない? こんな醜い顔をした男と結婚できると思う? あたしはこの国の王女よ! こんな男が私の夫? ドーレスの王? あり得ないでしょ!」
テオドールじゃなくても、妹の言葉には、はらわたが煮えくり返りそうだった。
自分を助けてくれた恩人になんて仕打ちなんだろう。
「何よ、文句あるの!? お父様だって同意してくれたのよ! あたしは何も悪くない!」
父が顔を背ける。
どうやら本当のことらしい……。テオドールは王女を救ったという名誉を隠され、一方的に婚約を破棄されるという不名誉を負ったことになる。
これには失望しかなかった。
私は何をしにここに来たんだろ。この人たちを助ける価値はあったの……?
テオドールが怒り狂うのも無理はない。もちろん反乱という形が正しいとは言えないけれど、父や妹が罪を問われるのは当たり前だ。
そんな人たちのため、私は命の危険を顧みず、助けるために戦地へやってきてしまった。シュウたちにも申し訳なく思ってしまう。
自分の家族がろくでもなくて、情けない。そう、こんなんだから、私は家を出ようとしたんだ……。
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