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反乱者
「ひっ、ひっ、ひっ……」
息を切らし、もう一歩も動けない。
でも足を絶対に止めちゃダメ。
戦場においては皆平等で、足を止めた者は殺されてもしょうがないし、希望や目的はすべて叶わない。
もう無理。もう無理。と思いつつも足を進める。
そして、最後の階段を上り終え、やっと最上階へと辿りついた。
「お父様!」
もう声なんか出ないぐらいなのに、私はすべての息を使って叫んでいた。
目に入ったのは、額から血を流した父ヨハン。顔が腫れ上がっていてきっと殴られている。
そして、父に剣を向ける騎士。仮面をつけていて誰だか分からない。きっとこの反乱軍の大将だ。
父にかばわれるようにその後ろには、母と妹の姿が見えた。
護衛の兵は全滅したらしく、みんなそばに倒れている。全滅……。
あまり広い空間ではないけど、仮面の騎士の兵士たちが十数人控えている。
「テレジアか……」
苦痛でゆがんだ声で父がうめく。
今すぐにも駆けつけたい。でも、敵援軍が現れたのだと、すぐに仮面の騎士の配下が私たちを阻むように動いた。
「分かりやすい構図だな」
疲労困憊なのに、涼しい顔をしてシュウが言う。
「いかにも悪役面の男。命を狙われる王妃と王女。それをかばう王」
あまり上がらない腕で、それぞれに刀を向けてみせる。
「そして、悪を討つ英雄の登場ってわけだ」
「誰だ、貴様は?」
仮面の男が不愉快そうに言った。
「名乗るべきじゃないんだろうが答えてやろう。忍びを束ねる者。扶桑の王子、風早だ」
「扶桑? 島国の者が何用か?」
「あんたに恨みもないし、この事情に興味もないが、王を助けるようお姫様に言われたのでな。介入させてもらう」
改めて冷静に考えてみれば一国の王子が、他国の内乱に関わるのはすごい事態かもしれない。心配だけど考えるのは終わったあとだ。
「ふん、お転婆娘が」
仮面の男がいい捨てる。
その声はどこかで聞いたことがあった。誰かは分からない。でもやっぱり臣下で間違いないみたい。
「やれ」
仮面の男が命じ、兵士たちが斬りかかってくる。
袋から鉄のつぶを取り出したけど、もう腕を回転させる気力が湧かなかった。
しかし、シュウは動いていた。
振り下ろした剣に向かって刀を叩きつけ、剣ごと兵士を両断する。
その勢いのまま回転して次の敵に斬りかかり、続けざまに2、3人をやっつけてしまった。
「怯むな! たかが一人だぞ!」
仮面の男が言う。
人数に入っていないのは悲しいけど、まさにその通り。シュウはやっぱり別格だった。
「一騎当千って言葉を知ってるか? 俺を倒したいなら千の兵を連れてきな!」
本当に疲れ知らずなのか、そう言って気勢を挫かれた兵をさらに倒していく。
そして最後の一兵まで地面に倒れてしまう。
「くっ、なんという強さだ……」
「武器を捨てろ。そうすれば命は取らない」
シュウは強気に言うが、明らかに疲労がにじみ出ていた。足がふらつき、柱に寄りかかっている。肩で息をしていて、体が大きく揺れていた。
「虫の息ではないか」
「どうかな……」
仮面の男が剣を抜き、二人が対峙する。
もう腕が上がらないのか、シュウはずっと刀を下げたままだった。
「シュウ!!」
勝てるわけがない。そう思って、私は仮面の男の前に飛び出した。
私が戦っている間に、シュウが少しでも動くようになっていれば……。
相手のほうが明らかに強いだろうけど、シュウが回復するまでの時間は稼いでみせる!
スリングに鉄のつぶをあてがった。けれど……。
「……下がれ」
ふらふらと私の体にしがみつくようにして、シュウが前に出てきた。
「無理だよ!」
けれどシュウは何も言わず、私のスリングを強引に奪い取る。
「見苦しいぞ! 下らぬ芝居はやめてもらう!!」
このやりとりに業を煮やした仮面の男が突っ込んで来る。
「シュウ!!」
でもシュウは避けなかった。それどころから前に進もうとする。
けれど足がもつれて倒れ込んでしまう。
ああ! 切られちゃう!
私はそう思った。
でも、その予想は嬉しいことに裏切られる。
シュウはそのまま地面に転がってしまったけど、仮面の男も足を止めていたのだ。
男は顔を痛そうに押さえている。
「へへっ、やったぜ……」
寝転んだままシュウが笑う。してやったりの顔。
私から奪った敵つぶてで、仮面を叩き割ったみたいだった。
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