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突入
シュウはさっき城裏の絶壁から侵入したけど、今回は正面から進むことになった。
私が崖を登れないのもあるし、安全を確保できない状況で登るのは危険だから。
正面に回ると、大手門は無惨にも破壊されていた。
大砲が放つ高速の鉄球を何度もぶつけられ、ぶ厚い鉄扉がひしゃげてしまっている。
そして至るところには兵士たちが倒れていて、城内で戦闘が起きている事実を認めざるを得なかった。
城内から銃声が響いてくる。敵兵はすでに内部に入り込んでいるようで、大手門付近には誰もいなかった。
城下町からは、何が起きたのかと不安そうに住民たちが遠巻きに見ている。
「何か武器は使えるのか?」
シュウが言う。
「って……使えるわけないか。お姫様だもんな」
「スリングなら」
「スリング?」
「ヒモを振り回して石を飛ばすやつ。女の子が武器なんか持つんじゃないって、弓を持たせてもらえなかったから、スリングで狩りに参加してた」
「へえ、すげーな」
そう言うとシュウはフードを脱ぎ、長めの髪を束ねていたヒモを外す。
カラフルな糸を編んで作られた装飾性の高いヒモだった。アサシンだから真っ黒な格好をしているけど、案外オシャレなのかもしれない。
「ほら」
「くれるの?」
戦闘があるから髪を束ねておけってこと?
「違う。スリング用」
「ああ……」
髪ヒモを使ってスリングにしろってことだった。
「無理すんなよ。相手は本職の兵士だ。お姫様だって名乗れば見逃してくれるかもしれないが、戦場でみんな気が立ってるから、区別なんてきねえ」
「う、うん……」
髪を束ねるためのヒモだったけど、かなりがっちりしていた。
スリングは、ヒモにひっかけた石を振る舞わして、遠心力で飛ばすだけの簡単な武器。でも威力は絶大で頭に直撃すれば、一撃で倒すこともできる。
甲冑相手の兵士には効果は弱いけど、牽制としては十分なはず。
「あとこれも」
小さい袋を渡される。
見た目以上にずっしりしていて、危うく落としそうになる。
中を見ると鉄の小さい塊がたくさん入っていた。
「鉄つぶてだ。投げるのは得意なんだが、スリングは苦手でな」
「あ、ありがと」
シュウは普段、鉄のつぶを投げて武器にするみたいだった。アサシンは隠し持った暗器で戦うというけれど、それをスリング用に譲ってくれるらしい。
小石を拾ってヒモに引っかけるつもりだったけど、鉄ならばかなりの威力が出そう。
「両軍、武器も鎧も同じですね。これは内乱で間違いなさそうです」
私たちが戦う準備を整えている間、ファウストが倒れた兵士を調べていた。敵も味方も同じ装備だという。
「ホントに身内に裏切ったってこと……?」
主な臣下の顔は知っている。
いつも父に尽くしてくれる優秀な人たちなのに、どうして裏切ったんだろう。何か不満があったのか、権力に目がくらんだのか。思い当たるものがなかった。
身内のことだけど、なんだかんだで慕われる王様なんだ。
そして、これから戦わないといけない相手がかつての仲間、という事実に得も言えない気持ちになる。
「ここで待っていてもいいぞ」
「冗談言わないで。家族は自分で助けるわ」
「ふっ、その心意気やよし。期待してるぞ」
シュウに肩をぽんと叩かれる。
なれなれしさはあるけど、それは信用してくれているっていう意味でもあり、ちょっと嬉しい。
自分も遊び回っていたときは、男子たちとそういう関係だった。お姫様と気を遣われるとすごくやりにくい。
「さあ野郎ども、戦だ! 手柄首はいらん、すべて捨て置け! 歴史の影に扶桑衆あり、名誉は己が心にのみ抱け! 出陣!!」
「おー!!」
シュウが号令すると、忍びたちがそれに応える。
数はシュウとファウストを合わせて11人。
敵の数は分からないけど、城兵は数百いるから、きっとそれより多いはず。
無謀な戦いであるのを分かっているはずなのに、シュウたちは恐れるどころから意気が高まっている。
その熱量に私も自然と気が奮い立つ。
それぞれに武器を構え、一気に城内へとなだれ込んだ。
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