突入

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「城側は壊滅状態だな。さっさと片付けないと、王がやばいぞ。王はどこにいる?」  シュウに話しかけられて、はっとする。  こんなことで落ち込んでいる場合じゃなかった。 「寝てたと思うから寝室?」 「いや、もうどっか安全なところ連れ出されてるはずだ」 「安全……」  普段は御殿で生活してるけど、防衛のことはまったく考えてないから、兵士たちが攻めて来たら絶対に守り切れない。となれば……。 「主塔の玉座の間!」  城下町から大手門をくぐるとドーレス城の敷地だ。  丘の上に立っていて、周囲には城壁が張り巡らされ、横からは侵入できない。シュウは無理矢理よじ登ったけれど。ちなみに、私が住んでいるのは城壁に付随する塔の一つ。  内部にはいくつか建物があり、王室の生活スペースである御殿、議会場、兵や使用人らが済む居館などがある。  昔、「戦いの城」であった名残で、奥の主郭には石造りの主塔がある。とにかく古いもので居住性が低く、今では使われていなかった。でも防衛能力は残っているみたいで、立て籠もるならそこしかない。  私はこの城で一番高い塔を指さす。 「サード、テレジアの護衛につけ」 「はっ!」  サードと呼ばれたアサシンが突然目の前に現れ、膝をつく。 「無理はするな。あとは俺たちがやる」  それはここで待っていろ、という意味だった。  何を考えているのか完全に見抜かれていた。  戦場に身を置くシュウにとっては、こんな小娘の考えなんてすぐに分かるんだと思う。やる気満々だったのに、いざ戦場に入ればビビってしまってる。ほんと情けない……。 「言い返せよ」 「え?」 「悔しくないのか? 自分で守るんだろ!」  発破をかけてくれてる……? 「これからは死地。覚悟のない者は命を吸われ、ゴミのように死んでいく。勝ち残る気がないなら帰れ」 「…………」  ほんとにシュウの言う通りだと思う。  勝手に自分はできると思い込んで、戦場に入り込んでしまった。そんな人間が誰かを助けられるわけもなく、自分すら危うい。自分からシュウを巻き込んだのに迷惑をかけるだけになっている。 「帰らない……」 「あ?」 「反乱が起きてしまったのは王室の失態。腐っても私はその一員なの。王室が滅びるなら見届けないといけない。父が反逆者に討たれるなら一緒に殺されないといけない。……でも、できれば生きたい……」 「ほう」 「だからお願い……。私に力を貸して。みんなを救いたいの!」 「よく言った!!」  シュウがいきなり私の手を掴んでくる。 「その思い、確かにこの扶桑衆が聞き届けてやろう! 野郎ども、突撃だ! 俺たちに続けい!!」  俺たち? そう思ったときにはもう手を引っ張られていた。  シュウが私を連れて最前線に突っ込んでいく。 「ひいいいっ!?」  覚悟したとは言ったけれど、いきなりこんなことになるなんて聞いてない!  読みは正しかったようで、主塔を取り囲むように兵士たちがいた。  おそらく内部にはすでに入り込んだ部隊がいて、誰も逃がさないように包囲しているに違いない。  数百はいると思う。簡単には中に入れなそうだった。でも……。 「倒し甲斐があるな。テレジア、俺から離れるなよ。うおおおっ!!」  敵はまだこちらの存在に気づいていないけど、シュウは何の小細工もせず、真正面から突っ込む気だった。 「うわあああっ!?」  兵士たちの着ている甲冑は、剣や銃撃を防ぐためにかなり分厚い鉄板になっている。でも、シュウの刀はそれをものともせず、甲冑ごと断ち切ってしまう。  敵も負けじと斬りかかってくるけど、私の腰をがっと掴んで引き寄せてかばう。そして反撃で倒しては先に進んでいく。  シュウの戦いを完全に一緒になって体験する羽目になり、私は目を見開いて体を固くすることしかできなかった。  わずか十数人で数百人と戦う? しかも私をかばいながら。  でも彼らは無謀とは思っていない。きっと自分たちの腕に自信があるんだ。 「敵襲! 敵襲!」 「すぐに迎撃しろ!」  反乱軍は混乱しながらも、すぐに迎撃態勢を取る。  兵士はシュウたちを取り囲むが、シュウは足をとめることなく、なんと刀を敵に向かって投げつけた。 「邪魔だ、どきやがれ!」  そして私を抱きかかえると、跳び蹴りを食らわした。 「殿に続け!」  ファウストは小さいナイフのような武器を持っていた。素早い動きで敵に接近し、兜と甲冑の間で無防備になっている首元にナイフを突き立てる。  続いて忍びたちも敵集団に突撃して、次々にナイフで撃破していった。  当然の乱入者に対応できず、敵はどんどんシュウたちによって斬り伏せられていく。 「信じられない……」  色んな意味で理解が追いつかなかった。  シュウが刀を拾うために下ろしてくれたので、ようやく一息つけたけれど、シュウの激しい動きに振り回されて、心臓バクバクだった。  そして、あんな軽装のたった十一人が、重装備の何百人を相手に善戦している。 「クナイだ。扶桑の忍びに伝わるナイフ。小さくて取り回しがよく、投擲にも向いている」 「そうなんだ……」  ファウストたちが使う小さい刃物についてシュウが解説してくれる。  彼らが武器を振るえばまた一人倒れ、二人倒れ、どんどん数が減っていく。  圧倒的な力量差だった。悲しいことに我が国の兵士では彼らは止められそうにない。  扶桑。辺境にある島国だとは聞いたことがあるけれど、戦争になったら勝負にならないかも……。 「うおおおっ!!」  背後から明確な殺気。というよりその声は私に向けられていた。  しまった!  シュウたちに気を取られて、自分のことを疎かにしていた。  振り向くと、兵士の一人がまさに斧を振り下ろそうとしている。  やられる!?  そう思ったけど、兵士は斧を掲げたまま、前にばたりと倒れてしまった。 「え……」  よく見てみると首元にクナイが刺さっていた。 「姫様、ご油断めされるな」  アサシンの一人が言う。何番目だろう? フォース? フィフス?  どうやら私のピンチに気づいてクナイを投げてくれたようだった。 「すごい……」  全身を鋼鉄で身に包んだ兵士の首に、ピンポイントで当てるなんて神業だった。  アサシンは褒められたことに気を止めることなく、すぐ次の標的に走り去っていた。 「いけない。しっかりしなきゃ!」  また呆けている場合じゃない。  ここは戦場。生きるか死ぬか。  自分の意志でここに来たんだから、シュウたちに甘えてる場合じゃない! 自分のことは自分で守り、みんなを救い出す!  そう言っているそばから、兵士が槍を突きかけてくる。  ひらりとかわし、スリングを回転させて、すれ違いざまに石を頭部に叩き込む。  ガチンと金属が弾ける音がする。  命中!  兵は脳しんとうを起こして倒れ込んだ。 「よし!」  私もやれる!  体は全然なまってない。狩りをしていた頃みたいにスムーズに動く。  圧倒的に不利な戦いだと思ったけど、シュウたち扶桑のアサシンと一緒なら、両親や妹を助けられる気がしてきた。
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