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「王の間は最上階だな?」
「うん」
「一気に突破するぞ!」
シュウはそう言うけれど、敵の数はまだまだ敵のほうが圧倒的に上。
気持ち的には今すぐにでも行きたい。でもそうならないのは戦素人の私にも分かる。
「ファウスト、ここは任せるぞ!」
「はっ! 片付け次第、駆けつけます!」
安請け合いするファウスト。しかも倒して追いかける気でいるらしい。
「みんな、お願い!」
でもこの人たちならばやれるんじゃないかと期待してしまう。
また会おうという思いで別れを告げ、シュウと一緒に主塔へ突入する。
主塔の構造がすごくシンプルで、壁沿いに階段が配置されていて、らせん状に登っていけばいい。
幸い、内部には敵兵が少なかった。すでに城兵はすべて討ち終わり、増援が入って来ないように見張っているようだった。
それがどういうことか明らかだ。もはや主塔は完全に制圧され、敵の手に落ちている。
私は不安で押し潰されそうだった。
「大丈夫だ。きっと生きてる」
シュウにぽんと頭を触られる。
「うん……」
普通ならわずらわしいと思うはずなんだけど、不思議と心が落ち着く感じがした。
シュウの言う通りだ。少しでも希望があるならば諦めちゃいけない。
シュウと階段を駆け上がりながら、一緒に敵を蹴散らしていく。相手がバラバラに散らばっているなら絶対に負けない。
でも……。
「はあ、はあ、はあ……」
長く険しい階段。敵の侵入を防ぐためにわざと急に作られている。息が尽き、足ががくがくと震えてきた。
戦争用の城に手すりや柵なんかないから、ちょっと足をすべらしたら一階まで真っ逆さまに落ちてしまう。
でも呼吸がきつくてふらふらする。
「テレジア、避けろ!」
シュウが叫んでいた。
かすむ目で上を見上げると、敵兵が銃をこちらに向けている。
ドォン!
伏せることもできないまま、弾丸が発射されてしまった。
頭は酸欠気味で、その行動を見たという事実を認めることはできた。でも、それに対応する行動が思いつかない。次に理解したのは「私、死ぬな……」ということ。
でも、弾は私に当たらなかった。
「ぐっ……!?」
目の前で血の花が咲く。シュウがその身を挺して守ってくれていた。
「シュウ!!」
「くそっ!」
シュウはケガに構わず、クナイを投げる。
命中して兵士が上階から落下してきた。そのまま一階まで落ちたようで、金属が叩きつけられるすごい音がした。
「大丈夫!?」
すぐに傷を確認する。弾は左腕に命中したようだった。
「ああ、たいしたことねえ……」
そう言うが顔から大量の汗が噴き出し、必死に苦痛に耐えていた。
私は自分の服を破って包帯代わりにし、シュウの腕を縛る。
「つっ……。ざまあねえな……」
「私なんか、ほっといてよかったのに……」
私じゃほとんど戦力にならない。まともに戦ったら、兵士一人だって倒せないと思う。この場合、どう考えてもシュウのほうが大事だ。
「何言ってやがる。家族を助けるんだろ? お前が死んじゃ話にならねえ」
「そうだけど……」
情けなさに涙がこぼれてくる。
自分が油断しなければ……。自分に力があれば……。全部シュウに頼っちゃう……。
ダメだ、いけない! ネガティブな感情に支配されそうになる。ここは戦場。そういう考えが命取りになる!
ぱちんと自分の顔を思いっきり叩く。
「ふっ、大丈夫そうだな」
そう言ってシュウはケガをしているのに肩を貸してくれる。
さすがのシュウも息が上がっていた。この負傷に加え、これまでずっと戦いっぱなしでかなり消耗しているはず。
ここは甘えてばかりもいられない。
自分がシュウを支えるぐらいのつもりで、こちらもシュウの肩に腕を回す。
もはや運命共同体。私の命、シュウに預ける!
事態は一刻も争う。
いったん休むべきだったんだろうけど、お互い支え合いながら私たちは階段を一歩ずつ上っていった。
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